渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

アメリカ番長

最初の首相退陣後は時の運に恵まれず、鳴かず飛ばずで、一時は夜鳴きそばの屋台を引いて生計を立てていた安倍総理に、ただ一人変わらぬ友情をもって援助を惜しまなかったのが、渡辺電機(株)さんである。総理も大いに感謝し、返り咲いた暁には閣僚の座を用意するとまで言わしめたのだが、立場変われば人は変わる。漫画の仕事も途絶え、尾羽打ち枯らして救いを求め官邸を訪れた渡辺電機(株)さんに、安倍総理は犬の真似を命じた。犬になりきって夢中で庭を転げ回る渡辺電機(株)さんを、総理や居並ぶ閣僚たちは嘲笑った。犬の演技は次第に熱を帯び、渡辺電機(株)さんは低いうなり声をあげ、ついには野獣の咆哮を上げて襲い掛かり、閣僚を残らず食い殺してしまった。静かな官邸の庭に、渡辺電機(株)さんの荒い息遣いが響き、やがて、総理の高らかな拍手。合格だ。お前の器を、試させてもらった。我が安倍内閣の大臣に、お前を迎え入れよう。殺されたはずの閣僚たちも起き上がり、惜しみない拍手を送ったが、渡辺電機(株)さんは固辞、もっと強い敵を求め、単身アメリカへと旅立ったのである。

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ミラーマン

近所の小学校の生徒たちから「バイキンおじさん」「ゴミ」「フルチンサンタ」などとあだ名されイジメを受けていた中年男性・渡辺電機(株)さんの涙ながらの訴えを受け、杉並区教育委員会が調査を開始したが、その結果浮かび上がったのは、子どもたちによる渡辺電機(株)さんに対する、陰惨なまでの仕打ちの数々であった。こいつはひでぇな…。資料を机の上に投げ出し、麻生太郎はため息をついた。どうやらオレがひと肌脱ぐ時のようだな。トゥッ!!眩い光の中でウルトラマンに変身した麻生太郎は、スペシウム光線で東京都杉並区を火の海と化し、満足げにうなづくと、ジョワッと飛び上がり、夕日の彼方へ飛び去って行った。その頃、渡辺電機(株)さんはコミケ会場のエスカレーター下で、手鏡を手にウロついていたところを捕えられ、スタッフに袋叩きにされていた。

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クワイエット・ライフ

電機さん、約束を破りましたねー。大平透の野太い声で迫ってくる小太りの男のシルエットに光る2つの大きな目を、渡辺電機(株)さんは驚愕の表情で見つめた。も、喪黒さん違うんだこれは…ヒィーッ勘弁してくれーッ!!約束を守らなかったアナタには、それ相応の罰を受けてもらいます。ドーン!!おい、待てよ。甲高い声に振り返ると、哀川翔がサングラスを外しながら、近づいてくる。電機さんが一体何をしたってんだい?なんですか、アナタには関係のない…。そうは行かねえよ。そいつぁ、おれのマブダチなんだ。的なことがまぁ色々あって、今では哀川のカブトムシ養殖事業の現場で、時給70円で尊い汗を流しているという渡辺電機(株)さんが、本当に救われたのか、それともあのまま死んでいた方が幸せだったのか。それは、誰にもわからない。

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時の行者

横綱ッ横綱!いやらしい腰つきの金星が桟敷席で横綱にホの字の様子で熱い視線を送っていたでゴンスよ!わざとらしい力士用語でバレバレのヅラをつけてすり寄って来る付け人が、渡辺電機(株)さんの変装なのは誰の目にも明白だった。だが横綱は、付け人の頭をポンポンと軽く叩くと、そうか、ありがとよ。穏やかに笑い、案内する付け人の後ろを黙ってついて行った。校舎の屋上では、隣のクラスの不良グループが、待っていた。ヨウこいつかい、生意気な野郎ってのは。渡辺電機(株)さんはヅラを脱ぎ捨てると、猫背でタタタと不良グループに駆け寄り、番長、やっちまってくれ!と、横綱を憎々しげに指差した。だが、畏れ多くも国技たる大相撲の横綱に歯向かうなど、どうしてできようか。渡辺電機(株)さんは不良グループに厳しく諭され、涙ながらに横綱に謝罪させられた。だが、その時すでに横綱は、時空を超え56億年の未来で馬頭星雲の一部となり、地球を飲み込まんとしていたのである。

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戦後日本の終わり

ちはやふる〜、うんこのにおい、しろたえの〜。渡辺電機(株)さんの主催する、うんこ百人一首大会会場の登別公民館小会議室には、渡辺電機(株)さん以外の姿はなく、静かな室内に朗々たる渡辺電機(株)さんの声だけが、響いていた。招待席に置かれた、安倍総理や横綱ら著名人の名札の数々が、虚しかった。縁もゆかりもなく、渡辺電機(株)さんが一方的に友達と思い込んでいる彼らが、来るわけが無いのである。ありあけの〜、あなるにささる、ばふんうに〜。認めたくない現実から逃れるように、ますます声を張り上げていた渡辺電機(株)さんだったが、下の句を読み上げることなく絶句、やがて、肩を震わせ嗚咽を漏らし始めた。ひでえよみんな…。税金だって払ってるし、国技館で横綱湯呑みも買ってサァ…。下の句はまだかい、電機さん。背後から、暖かな包容力と威厳のある、懐かしい声。横綱、来てくれたの?!目を輝かせて振り向き、引き戸を開けた渡辺電機(株)さんの前には漆黒の闇がひろがっており、暗黒の中にポッカリと浮かぶ二つの目が、「フフフ…朝だとおもったのかね?」と、笑っていた。こうして渡辺電機(株)さんは、なんかよくわからないものに、呪われてしまいましたとさ…。

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世界の中心で、愛を叫ぶ

キョンシーに変装して横綱を驚かせてやろうと準備万端、顔を青く塗り、変な衣装を着て、ピョンピョン跳びながら東支度部屋へ忍び込んだ渡辺電機(株)さんだったが、すでにゾンビにやられて中の力士全員がゾンビ化してしまっており、渡辺電機(株)さんは半狂乱で泣きながら、律儀にキョンシー風にピョンピョン跳んで、ただただ逃げた。ゾンビの群れに追われて逃げ惑うキョンシーを見て、町の人々は笑ったが、偶然通りかかったサモ・ハン・キンポー氏は、かつて「霊幻道士」プロデューサーを務めた過去もあり、この様子を見て感激。ぽろぽろ大粒の涙を流して渡辺電機(株)さんを讃えた。それが縁で「燃えよデブゴン」シリーズの常連となり、渡辺電機(株)さんは香港映画界に無くてはならない貴重なバイプレーヤーとして、存在感を増して行った。それがなぜ、コミケのロリコン同人誌の行列の最後尾でつまらぬ小競り合いをして、命を落としたのか…。

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宇宙の果てを超えて

角川春樹と共に、古代船「野生号」、ヨット「野生号Ⅱ」に続き、光子力推進ちんぽ「野生号Ⅲ」の建造に着手したと発表、一躍マスメディアの寵児となり、クラウドファンディングで数千万の資金を集めた渡辺電機(株)さんだったが、角川春樹事務所が公式に事実を否定するに及び一転、詐欺師として世間の批判を浴び、鴨川河川敷にブルーシートで作った自宅に、報道陣が押し寄せた。野生号Ⅲは、ここにあります。おびただしいカメラのフラッシュを浴びながら、渡辺電機(株)さんは臆することもなく微笑み、己の下腹部を指差した。さあ、乗りなさい。みんなで、宇宙の果てを目指しましょう。なんだこのキチガイ、妄想狂か脳梅か?ざわめく報道陣に向けて渡辺電機(株)さんが開陳した、湿った小ぶりのちんぽに、黙って手を差し伸べる老人。角川春樹その人だった。おれは信じてるよ、電機さん。さあ行こうぜ、宇宙の果てへ。やがてちんぽは発光を始め、白く暖かい光球が、無言で見つめ合う渡辺電機(株)さんと角川春樹を包み込んだ。まばゆい光が薄れていくと、もう2人の姿はなく、呆然と立ち尽くす報道陣が残されていた。宇宙の果てに行ったと誰しもが思った2人が、姿と名前を変えて帰って来たのは、翌年の春のことである。その時彼らは、やまかつWinkと名乗っていた。

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