渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

鋼鉄の全裸中年旅団

帝都を襲った大雪のため交通機関がマヒしてしまい、会社から帰るに帰れなくなった渡辺電機(株)さんだが、転んでもただでは起きない。こんなこともあろうかと!会社のロッカーから引っ張り出したのは、ドクター中松考案のジャンピングシューズ。コイツを履けば雪の中もピョンピョン家までひとっ飛びだぜ!そんじゃアバヨ愚民ども、お先に!そう言って雪空高く舞い上がった渡辺電機(株)さんは、やっと動き出したJR中央線快速電車の真正面に着地し、声を上げる間もなく雪の中の赤いシミになった。

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小さな天使たち

ママをいじめるおじさんを殺してください!幼い姉妹が思い詰めた表情で差し出した貯金箱には、おそらく1万円も入っていなかっただろう。だが、父親のいない子どもたちの見ている前で母親に手を上げ、なぐさみものにする男を、殺し屋は許せなかった。わかった、引き受けよう。少し足りないけど、それはお嬢ちゃんたちの腎臓いっこずつで、手を打つよ。殺し屋のおじさん、ありがとう!!手を取り合ってぴょんぴょん跳ねて喜ぶ姉妹に背を向け、指定されたアパートの一室に向かった殺し屋が見たものは、首から「彼氏」と書いた段ボールをぶら下げ、顔を腫らし鼻血を流して呆然と座りこむ渡辺電機(株)さんと、おばさんパーマに白粉と頬紅、スカートの下から突き出す丸太のような太ももで仁王立ちして渡辺電機(株)さんを見下ろす、横綱だった。この場合、殺し屋が取るべき正しい行動を、150字以内で答えよ。

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添寝の悪夢 午睡の夢

ゴリラの生き血を吸う吸血動物としてアフリカ奥地のジャングルで恐れられている渡辺電機(株)さんも、人件費削減の徹底を期した球団側の苛烈な査定の前では為す術もなく、来季の年俸はバナナ30本とタロイモやココナッツ、ヤシの実などを出来高に応じて受け取る、完全現物支給を受け入れざるを得なかった。このようにして、起きているのが精一杯の朦朧とした状態でかろうじて紡いだブログのテキストが、翌朝読み返してどのような気分になるか、とても想像する余裕は無かった。おやすみ渡辺電機(株)さん、良い夢を…。そう囁いてゆっくりと立ち上がった横綱のうなじには、いつしか巨大アフリカチスイマイマイが吸い付いていたが、気づいた横綱が気合一閃、力を込めると、マイマイの身体は瞬時に破裂して、紅い血煙がうっすらと漂った。稽古まわし姿で悠然とジャングルを歩み去る横綱。未だ健在、と言ったところである。

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猛禽類の夜

相撲界に見切りをつけ、新小岩でふくろうカフェの経営に乗り出した横綱を訪ねた渡辺電機(株)さんが見たのは、身長2メートル近い全裸の巨体にふくろうのガラをペイントし、来客に「甘噛み」と称して噛み付き、肩や膝、足首の関節を粉砕してなぶり殺しにする殺人狂に堕ちた、横綱の成れの果てだった。へへへ、おれと変わんねえや、ひとごろしの仲間は、やっぱりひとごろしになっちまうンだ…。なんだか嬉しく、そして切ない再会だった。

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キンキーアフロ

ゲッツ!ゲーッツ!!得意満面でポーズを決めながら花道から土俵へ駆け上がる、原色の黄色いスーツに身を包んだ渡辺電機(株)さんを見て、横綱は何とも言われない不安な気持ちに襲われた。おれの土俵入り、ブチ壊しにする気じゃねえだろうな。呆気にとられて固唾を呑んでいた観客、呼び出し、花道に集まった親方衆や力士たちが、渡辺電機(株)さんの軽妙なトークと要所要所で弾ける「ゲッツ!」のポーズに次第に惹き込まれ、やがて国技館は爆笑と拍手喝采に包まれた。気づくと横綱の両脇にいた露払いと太刀持ちも歓声を上げて土俵下に殺到し、足元に打ち捨てられた太刀が、群衆に踏まれて「く」の字に折れ曲がっている。やってくれたな、電機さん。綱を締めたまま静かに花道を引き揚げる横綱にスポットライトが当てられた刹那、「ゲッツ!!」ひときわ大きな声が響き、渡辺電機(株)さんの指先が横綱を指し示していた。横綱が無言でニヤリと笑い親指を立てて返すと、場内には再び割れんばかりの拍手喝采が鳴り響く。2018年の国技大相撲は、幕を開けたばかりだ…。

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てろてろ

もっとゲリラ風に生きてみないか。そう言って、ひょうひょうと時代を駆け抜けた怪人・野坂昭如。まさに時代と寝た男と呼ぶにふさわしい戦後メディアの寵児が、実は周到なプロデュースの元に演出された操り人形だったことは、あまり知られていない。あの黒メガネの人物は実はメディアに登場して「野坂昭如」を演じる役割のタレントに過ぎず、小説やエッセイは何人もの執筆チームによる共同作業、TVやラジオでの発言や一見ハプニングに見えた失言や乱行の数々も、全て事前に周到なリハーサルを行っての演技だったのである。そして、よく見ればわかるはずだ。時代によって、その顔は少しずつ、違っていることを。初代野坂昭如が空襲で亡くなったのを皮切りに、その演者は、疾病や産休、事故死、さらには実家の跡継ぎのための廃業などの理由で、何度か交代しているのだ。まさに「子猫物語」のチャトランのように…。そのような形態なれば、今でも齢90になんなんとする長寿作家の設定で継続することも可能だったが、もはや時代も変った。プロダクションは現在も存続し、当時のスタッフが残って同じように活動を続けているが、現在は黒メガネの焼跡闇市派小説家という設定ではなく、渡辺電機(株)と名乗る売れない漫画家という設定で、微妙につまらないマンガや身の程知らずの失言を、全て周到に計算した上で、世に送り出し続けているという。

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大正文壇交遊録

文壇ストリートファイト第壱回大会は、大正伍年参月、文藝春秋社地下コロシアムにて行われた。文壇の重鎮・菊池寛の一回戦の相手は、最近「羅生門」「鼻」といった古典文芸を基にした短編小説で俄に評価の高まった新鋭、渡辺電機(株)さんだった。この才気に富んだ跳ねっ返りの若手を、関所役人よろしくベテランの技で痛めつけてほしいという運営の意図は痛いほどわかったが、分厚い眼鏡に伸び放題の長髪を無造作にバンダナでまとめ、サイズの合わない毛玉だらけのダッフルコートに極彩色の紙袋を持ち、ぼぼぼくロリコンなんですうと口ごもって菊池を苛立たせるこの太っちょが、本当にあの才気走った作品を書いたのか。ファイッ!レフェリーの掛け声にゆっくり進み出て、疑問をいだいたまま菊池が軽く放った小手調べのジャブの先に、渡辺電機(株)さんはもういなかった。菊池の頭上10メートルほどに飛び上がった渡辺電機(株)さんは、ニヤニヤ笑いながら怪鳥のごとき奇声を発し、いつしか両手に持っていたヌンチャクを回転させながら、急角度で菊池めがけて舞い降りてきた。その刹那。突如モノクロームになった視界が激しく明滅してデジタルノイズが飛び交い、空中で動きを止めた渡辺電機(株)さんの姿が、次第に目の粗いドットになってデータの海に溶け散っていく。それを見ている菊池の自我も、もう数列の中に埋没して、どこまでが自分なのかもよく分からなくなっていた。

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