読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

忍法木の葉隠れ

おれもご多分に漏れず三十三観音巡りというやつにすっかりハマっていて、日本中に33個しか無いという御朱印をめぐって、他のチェイサーたちと血まみれの争奪戦を繰り広げている。もう、何人殺したか覚えてすらいない。今日も秋川渓谷の森のなかで銃撃戦の果てに、卍の寅吉と呼ばれる名うてのチェイサーを撃ち倒し、御朱印を奪った。これで7個目。手持ちが増えるにつれ、狙われることも増えていくので、おれは常に背後にも注意を怠らない。ショエーッ!見よう見まねのカンフーポーズで奇声を発するおれを、通行人は皆見てみぬフリをして、無言で足早にすり抜けて行く。その内半分くらいは明らかにむじなが化けている。クワッと威嚇してやると、尻尾を出してあわてて逃げ出していく。ははは、おもろい。はははは。パトカーの音が近づいてきて停まり「またあいつかよと」ウンザリした声。制服をきたこわいおじさんたちがあつまってきて、ぼくを

続きを読む

カフェ・ド・サヰコ

釣り餌屋で買ってきた、袋詰めの生きたコオロギを袋からつかみ取って、スナック菓子のようにムシャムシャ食いながら入店したら、スタバの店員たちに消火器で真っ白にされて追い出されてしまった。食い物の持ち込みはたしかにマナー違反だが、コオロギが全部死んでしまったし、こっちも泡だらけにされて黙っているわけには行かない。おれは大空に浮かぶ、おれにだけ見える惑星に向けて思念を送った。ネビュラ星、変身願います!!星から伸びた一筋の光。まばゆいスペクトルに包まれたおれの体は、長さ20mはあろうかという巨大ミミズに姿を変えていた。ううう。声も出せず、もはやミミズの本能しか持たないおれは、スタバへの怒りも忘れ、無我夢中で地面を掘り起こして土の中に消えていき、それっきり二度と姿を現さなかった。

続きを読む

平成名力士伝

その佐藤と名乗る新弟子の少年は、誰の目にも明らかに将来の大関・横綱を予感させる、才能とパワーが満ち溢れていた。だが彼は会話に難があり、奇声を発することでしか、感情を表現できなかった。彼の入門以来、部屋には朝から彼の奇声が途切れることがなく、それまでは親方の生真面目さもあり、常に緊張の張り詰めていた部屋の空気が、彼のお陰でだんだん和やかなものになって行った。力士たちにも自然と笑顔がこぼれるようになり、比例して各々の番付も上がっていった。いつしか部屋頭として部屋を牽引する立場となって行った彼が、大関昇進の使者を迎える席でも、あの奇声を発するのか、それとも大関にふさわしい口上を述べるのか。メディアが注目する中、紋付袴に身を包んだ彼がクワッと白目をむき、渾身の力を込め発した、かつてない高音域かつ大音量の奇声は、その場にいた全員の脳を瞬時に破裂させ、部屋中の窓ガラスを割り、半径3km以内のお年寄りと犬猫、鳥類の命を奪った。奇声の佐藤、その名にちなんで稀勢の里と名付けられた名力士の死屍累々たる出世街道は、始まったばかりだった。

続きを読む

キノコキノコ

高尾山にキノコ狩りに行ったよ。週末ということもあり、邪悪なカップルや意地悪な家族連れですし詰めのケーブルカーは、じろじろ見られる生き地獄。ひたすらエロイムエッサイムを唱えて耐え、やっと着いた高尾山駅から登山道へ。すると急に空が曇って紫色の豪雨が降ってきたら、観光客はみな悶え苦しんでドロドロに溶けて、ドクロも残りません。こんなこともあろうかと天狗の濡れ羽傘を持ってきて良かった!雨と体液でドロドロの登山道を進み、佛舎利奉安塔の脇からけもの道に分け入り、夢のお告げで聞いた秘密のキノコ狩りポイントへ。すると、あったありました!急に木立が開けたと思ったら、広場の中央にポツンと置かれた、苔むしたお地蔵さん、その周辺にビッシリと大小色とりどり極彩色のキノコが生い茂り、みな口々におれの悪口を言ってゲラゲラ笑い合っていた。てめえら、おれをばかにしやがって。持ってきた釘バットをメチャクチャに振り回し、おれは奴らを片っ端から叩き潰してやった。よだれが垂れるのも構わず、過呼吸気味にヒューヒュー息をしながら、飛び散るやつらの胞子でむせ返りながら、おれは暴れ狂った。それきり、おれが里に下りてくることは二度となかったが、高尾山に行けば、今でもおれの顔をしたキノコを見かけることがあるだろう。一人ぼっちで寂しいので、どうか話しかけてほしい。仲間がほしい…。

続きを読む

サヨナライツカ

中山美穂とパリで密会していたのがバレて辻仁成に命を狙われることになったおれは、世界各地を逃げ回り何度も彼とカーチェイスやカンフーバトルを演じ、つかみ合ったまま滝壺に落ちたり爆発する油田で互いを見失うなどの果てに、ラグビーで決着を着けようじゃないのと言う話になった。シャンゼリゼ広場の中央で辻のキックオフで試合開始、ボールをキャッチしたおれに群がってくる、数千人はいるラガーメン。全員が中山美穂とヤリたい一心で悪鬼の形相で追いかけてくる。なんとなくゴールをキメた者がミポリンとパツイチ決めると、そういう決まりになっているらしい。いつの間にか数万人に膨れ上がったラガーメンの集団を従えてイオンモールを逃げ回り、それを見たロメロ監督が米国公開版ゾンビの着想を得たという話は、今でも語り継がれている。

続きを読む

わたしの東京大空襲

転校生のおれがスポーツ万能であることはたちまち全校生徒の知る所となり、休み時間ともなると、教室に各運動部の猛者たちが集まってきて、我が部に入れと次々と迫ってくるのだった。まあまあ落ち着いて。で、カワイコちゃんにモテモテの部はどいつだい?それなら我がサッカー部に!そう言って華麗に舞ってみせたキングカズが、柔道部の篠原に襟首をつかまれて窓の外へ放り出される。そのスキに、我が野球部に入れば美人の女子マネージャーが待っているよ!と笑顔を見せる大谷翔平が、将棋部キャプテンの羽生に将棋盤を脳天に突き立てられ、白目を剥いて倒れた。やれやれ、モテる男はつらいねっと…。おれはヒラリと飛び上がり、窓からグラウンドへ駆け出した。待てーッ!どこからか鳴り響くオッフェンバッハの痛快なメロディに乗り、おれを追い回してグラウンド中で大騒ぎの運動部員たちの頭上から、米軍B52機の焼夷弾が、雨あられと降り注いだ。

続きを読む

恐くてかなワニいざんす

シェーッ!空腹のあまりワニ革のサイフを食ったら、ワニ男に変身してしまったざんす!というひどいオチの連載末期「おそ松くん」には後日談があって、そのまま川でワニとして暮らしていたイヤミが、都市開発が進むにつれ川も住みにくくなり、護岸工事が始まったのを期に街を去り、石森プロにアシスタントとして潜り込んでマンガ修行に明け暮れたのち、渡辺電機(株)というペンネームでデビュー、今に至る。身体は、いまでもワニのままだという。

続きを読む