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渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

恩讐の彼方に

20年にわたりずっとおれを恨み憎んでいるという元アシスタントを招き、たったひとりの、20年ぶりの卒業式を開いた。一同、起立。仰げば尊し、我が師の怨♪ あ、怨やて。やっぱまだわだかまりがあるんやね。歌を中断し、パチンと指を鳴らす。照明が落ち、鳴り響くフラッシュダンスのテーマ。闇の中に一条のスポットライト。かたくなな表情で立ち尽くす元アシに向かって、卑猥なダンスを踊りながらゆっくりと近づいてくる、半裸の渡辺電機(株)さん。その両手にしっかりとクリームパイを隠し持っているのを、元アシは見逃さなかった。先端に吸盤の付いた、音の出る矢を、ゆっくりと構える。最後の闘いが、始まろうとしていた…。

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カルナヴァル

近所の建築中の家で餅まきをやるというので、早起きして朝飯もそこそこにスッ飛んで行った。イエーイと奇声を発して跳躍、一番前の特等席を確保するおれに、待ち構える獰猛なドーベルマンの群れが襲いかかった。血だらけ半狂乱で枠組みだけの屋根によじのぼり、用意してあった餅を犬に投げつける。すると、おれが屋根に上るのを待っていたかのように群がり、餅を狙って殺到するカラスの群れ。どこからか鳴り響くオッフェンバックの「天国と地獄」。敷地内にアメフト選手団やサンバダンサーズ、十手と提灯を持った岡っ引きの集団に反原発デモ隊が入り乱れ、いつしかおれは業火に焼かれる屋根の上で、ラッパを吹き鳴らしながら、ザルに入った手榴弾をまき散らしていた。

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おれは誰だ?

お前は本当は橋の下で拾ったんだよと、よく親に冗談めかして言われていたのだが、まさか本当だったとは。よく考えたら自分がエロ本なの、なんか変だなとは思っていた。いやまあ、こんなベトついた古いエロ本を大人になるまで育ててくれて、親には感謝しかないけどさ。ふつう、拾うかね。ページも濡れてひっついてるし印刷も色抜けしてるし、なんか不自然なんだよなっつうことで、問い詰めてみたら、案の定。シャブの受け渡しで河原にいたら職質を受けて、とっさに「エロ本拾ってたんス」と言い逃れて、その時持って帰ったのが、おれだそうです。話し終えた親は黙って石みたいな表情だし、以来なんか変な無言電話が来るし、聞くんじゃなかったよ!

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ハイウェイスター

知床半島をチャリでぶっとばすぜ!と思ったら案の定、海沿いの国道をヒグマの親子に追いかけられながら、半狂乱で立ち漕ぎで逃げまどうハメになりました。いい年こいて、しゃくりあげながらチャリを転がすって、なかなか経験できないです。で、命からがら逃げ延びて…と言いたいところですが、オホーツク温泉の町並みが見えてきたんでコレで助かるぞと思ったら、町の人がクマにバナナだのシャケだの与えて、がんばれがんばれーなどと声援を送ってやがる。冗談じゃねえと右折、内陸部をズンズン行く内に、クマの数も増えるし、エゾジカだのキツネだのタカだの集まってきて、中標津を過ぎる頃には土煙を上げる動物の大軍団を率いる、意味不明の逃避行になっていた。そして近づく矢臼別自衛隊駐屯地。自衛隊精鋭VS動物軍団の一騎打ちが、始まろうとしていた。

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炎のジャイアンツ

老後はゴールデン街で店をやりながらマイペースでのんびり創作活動をしようとの夢も破れ、東京ドームのボールボーイのアルバイトで澤村に怒鳴りつけられ吸い殻を投げつけられる、屈辱の晩年を送っていた渡辺電機(株)さんの姿を、じっと見守る1人の老人の姿があった。讀賣巨人軍の総帥として辣腕を奮って幾星霜、齢91を迎えた渡邉恒雄の、集大成とも言うべき奇跡の瞬間であった。フロントやコーチ陣、選手らの反対を押し切り、渡邉の一存で先発メンバーの四番ピッチャーに据えられた渡辺電機(株)さんは、泣き叫んで抵抗し小便を漏らしながら、数人のスタッフに担がれ超満員の東京ドーム投手マウンドへ降ろされた。試合開始を告げる主審の声。怒りに満ちた目で渡辺電機(株)さんを睨みつける、打席の高山選手。苛立ち、声をかける小林捕手に、イヤーンと泣き声を上げ、座り込んだままボールを投げ返す渡辺電機(株)さん。時速185kmの豪速球が小林と審判の身体を吹き飛ばし、打席の高山の身体が風圧でくるくると回転した。巨人軍黄金時代の、幕開けだった。

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おかしな二人

「ジョンレノンさんですか。サインしてください」「いや違いますけど」「ジョンだよね」「違うっつの。メガネじゃねえしワシ鼻じゃねえし、日本人のババーも連れてねえし、第一おれ外人じゃねえし」「あ、ほんまや」「なにがしたいねん」「いや、神さんに電波でジョンレノン殺せ言われましてん」「やめといたりいな。せっかく復活して頑張ってるとこやん」「ゆうても話題性だけやで、あんなん」「ゆうな自分」「こう見えても趣味は音楽鑑賞(ロック)やさかいな。うるさいでえ」「他どんなん聴くん」「あ、自分もけっこう聴く人なん」こうしてチャップマン容疑者がレノンを殺害することはなく、渡辺電機(株)さんとロック談義に花を咲かせる内に意気投合、立ち上げたミニコミ誌がやがて総会屋系評論誌のトップに君臨し、日本政界のフィクサーとして隠然たる力を持つに至った。レノンは翌年ヨーコとの離婚を経て、数年後にビートルズ再結成に参加。徐々に音楽よりもタレント・俳優活動に力を入れるようになり、現在もアメリカのネット番組でホストを務め健在だが、その動向が日本まで伝わることは殆ど無い。

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仔猫ちゃんのいる店

おいねえちゃん、こっちきて乳でももませろや!そう言っておれの尻をなでた酔客が、振り返ったおれの顔を見てヒィッと鳴き声を上げ、その場に尻餅をついて失禁し始めた。お客さん、トイレでおねがいしますよ。おれは半狂乱の酔客を二本の指でつまみ上げると、バーカウンターの陰においたボックスに放り込んだ。モップと雑巾で手早く床を清掃、テーブルの上も片付けた頃には、装置も動きを止めてブザーが鳴り、中から現れたのは、裸同然の粗末な格好にも威厳と知性をたたえた、マハトマ・ガンジーその人だった。ありゃー、また聖人か。出ないっすね、女の子。若いバーテンと顔を見合わせ、閑散とした店内をうろつく聖人たちを見やる。日蓮、孔子、キリスト、親鸞、貴乃花、マザーテレサ、リンカーン…。ま、ここまで来たらあと一人出して、野球チームでも作ろうぜ。そっすね。女の子が出ればラッキーつうことで。気を取り直したところに新たに客が来店し、おれたちは再び活気づいた。客は、満面に好色そうな笑みをたたえた、不潔な渡辺電機(株)さんだった。背中がざわっと総毛立つのを、感じた。

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