渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

野望の巌流島

死んでもらいます。そう言ってバナナの皮をむき、背後に放り投げた白装束の渡辺電機(株)さんは、剥き身のバナナを口にくわえたままプールサイドを横切り、金髪美女の膝枕でぶどうを食わせてもらっていた安倍総理に近づいて行った。小次郎破れたり。安倍総理の怒号が、真っ青な夏の空に響く。自ら刀の鞘を捨てるとは、自ら命を捨てたも同然。この勝負、もらったわ。顔におおいかぶさった乳房をかき分け、美女の膝からゆっくりと身を起こすと、安倍総理は口の中にぶどうの実を限界まで詰め込んだ。憤怒の気合で、すぼめた口からマシンガンのようにぶどうの実を噴出する安倍総理。口にくわえたバナナで、それを打ち返して行く渡辺電機(株)さん。やがて二人とも果物を喉に詰まらせ涙目でのたうちまわり、決闘はなし崩しに引き分けに終わった。二人は仲良くサイゼリヤでおしゃべりを楽しんだ後、再戦を約して、別れた。プールサイドに散らばったぶどうとバナナを掃除させられた美女は大層腹を立て、これを境に、反自民の政治活動にのめり込んでいくことになる。

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怪談ばけねこボクサー

亀田四兄弟の最終兵器・亀田電毅と名乗って話題を引っ張りつつ、一向にデビューしないまま、とうとう五十歳を超えてしまった渡辺電機(株)さんを、史郎氏はたまりかねて大阪のジムに呼び出した。忙しい合間を塗って三兄弟も顔を揃え、父とともに渡辺電機(株)さんの到着を待ったが、約束の時間を過ぎても、その気配はなかった。逃げたんちゃうの、兄貴。鼻を鳴らす知毅を制し、渋滞かなんかで動けへんのとちゃうかと、心配そうに眉をひそめる興毅。おれが見てくるわ。拳と手のひらをパシパシ言わしながら階下へ下りていった大毅の、怯えきった悲鳴が響き渡り、一同慌てて立ち上がり、階段を駆け下りた。馬ほどもある巨大な猫が、大の字に倒れた大毅の胸の上に乗り、その顔をぺろりぺろりと舐めている。凍りつく兄弟を下がらせ、史郎氏が進み出た。とうとう人の心を忘れたんか、電毅。かつて渡辺電機(株)さんだった巨大な猫はにゃぁ、とひと鳴きすると、目にも止まらない速さで、窓から飛び出して行った。大毅を助け起こす知毅を呆然と眺める史郎氏。親父、どうする。興毅の問いかけに、ゆっくりと向き直った史郎氏の目に、やがて使命感の炎が宿る。やるしか無いやろ。あれは、おれたち亀田家が作り出した怪物や。史郎氏が差し出した拳の上に、三兄弟が順番に、拳を乗せて行く。最後の戦いの時が、迫っていた。

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表参道軟派ストリート

青山通りのオープンカフェで一人、目の前のアイスティーに手を付けず、物憂げに座っていた女性に声をかける。すみません、お隣よろしいですか。少し腕が太いかな、と思った、その金髪の女性がゆっくりと顔をあげると、それは女性ではなく、レスラーの高山善廣であった。いいっすよ、どうぞ。柔らかな笑みでそう言われて、もう後には引けない。ホットココアを両手でしっかり持ったままチョコンと座り、ちゅうちゅうとせわしなく吸い上げる。そんなおれをじっと見つめていた高山が、ゆっくりと口を開く。おれに話があって来たんでしょ、前田さん。誰と間違えているのか。異様な迫力に気圧され、人違いですとも言い出せないまま、おれは高山の車で両国国技館へ連れて行かれ、前田日明と称して高山とタッグを組み、リングに上がるハメになった。リングアナのコールを受け、半泣きで尻込みするおれに、高山は舌打ちして先鋒を買って出た。心細い思いでコーナーから満員の会場を見渡すと、鬼の形相で花道をこちらへ向かってくる本物の前田の姿が、はっきりと見て取れた。

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下北半島殺し旅

幻のマンガ家、渡辺電機(株)さんが唯一度サイン会を開いたことがあるという、大湊線の陸奥横浜駅前にあるコミック専門の小さな書店「下北書林」を訪ねて、店主の酒井勝さんにお話を伺った。渡辺電機(株)さんの名前を出すと酒井さんは途端に不機嫌になり、一度出してくれた南部せんべいを引っ込め、背中を向けて押し黙ってしまった。黒酢鼻責めの拷問で問い詰めた処、サイン会は近所のマタギや三沢の米軍兵士で賑わったものの、渡辺電機(株)さんは帰り際にショーケースに入っていた、オリジナル版「ミミズク通信」や「ジンクスちゃん」「ノーパンパニック」「侵略ガニ」「きちがい料理」等の稀覯本を、根こそぎ万引きして行ったという。本当だな。はい、早く、早く鼻の穴を洗わせて…。あの時、言ったよな。このことを誰かに喋ったら、命は無いと…。??ででで、電機さんッ!ちちちがうんですこれはっっッ!店主の鼻の穴に、さらに大量の黒酢が注ぎ込まれる。むせて窒息死するか、黒酢効果で健康になってしまうか、2つに1つの真剣勝負が、始まった…。

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雪の夜のKISS

トントントン、今晩泊めてくださいな。あんれまあ、こんな雪の夜に、誰だっぺ。木戸を開けた渡辺電機(株)さんの前に立っていたのは、KISSのメンバー4人でした。こんな雪の中を、そんな化粧して、甲冑つけて、バカみたいなブーツ履いて、重いギター持って、歩いてくるバカがいるかよ!正体表わせよ!そう罵倒しましたが、4人は日本語がわからず、困惑して顔を見合わせるばかり。片目に星を描いた男が、もし良ければサイン入りのレコードをプレゼントするし、楽屋にも招待したいと申し出ていることが、理解できる程度には英語力のあった渡辺電機(株)さんは、渋々彼らを招き入れながらも、もののけに化かされているのか、あるいは横綱の陰謀かと、警戒していました。メンバーが疲れ切った様子でメイクを落としシャワーを浴び、すっかり老いたアメリカ人に戻り、ぐっすり寝入ってしまった頃、やっと渡辺電機(株)さんも、彼らのことを信じ始めていました。そして夜が明け、KISSの4人は礼を言いながらキャデラックで帰っていきました。それから30余年、サイン入りのレコードが届くのを待ち続けた渡辺電機(株)さんは、誰に看取られることもなく、寂しくこの世を去りました。でも、あの奇跡の一夜が、彼の晩年にたったひとつの暖かな希望の光を灯したのです。すみません、自分で何を書いているのかよくわからないまま、終わります。めし食ってきます。

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ちんぽのパイレーツ

10年前に連載した地獄マンガで、女の鬼の屁を永遠に浴び続けるおなら地獄の話を描いたら、それを勝手にスキャンして画像うpサイトに自分で投稿しておいて「先生、うpされてましたよ!」とメールをよこし、何度かやりとりをする内に「タダでスカトロ絵を描いて送ってください」などと言い出すキチガイがいて、怖かったのなんの。ねえ聞いてる?横綱。だが、横綱は顔面蒼白で無表情のまま、だまって稽古場の座敷の畳を見つめていた。ビンゴ。やっぱり、あんただったのか…。

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ソナチネ

夜の海。白のタキシードの胸に赤いバラを挿し、「007は二度死ぬ」のテーマを流麗に歌い上げながら、渡辺電機(株)さんはゆっくりと海中に沈んで行った。鳴り止む伴奏。静寂。おい、もう3分過ぎたんじゃねえか。ビートたけしの言葉に、我に返って指示を出す大杉漣。動き出すクレーン。引き上げられたワイヤーの先に、渡辺電機(株)さんの姿は無かった。思わず顔を見合わせたたけしと大杉は、同時に「キツネだ!」と叫ぶと、泣き叫びながら逃げ出した。夜の海に、渡辺電機(株)さんの甲高い鳴き声が、響いた。

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