渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

白鯨モビィ・ディック

土佐の男の心意気、見せたるぜよ!モリを片手にふんどし一丁で水中に飛び込んで行った渡辺電機(株)さんは、やがて手足をバタバタさせながら浮かび上がり、たぁすけてくれえと悲鳴を上げた。おいら、カナヅチなんだ!!だが、かつて俳優・石坂浩二が所有していたというそのプールでは、今まさにアダルトヴィデオ作品の撮影が行われており、作業を中断させられた撮影クルーはカンカンに怒って、撮影用の電マやローション、コンドームを手に、泣きながらプールサイドを逃げまどう渡辺電機(株)さんを追いかけ回した。次第にフェードインしてくる、YMO「キミに、胸キュン。」のメロディ。流れるスタッフロール。やがて浮かび上がる、また来週の文字。

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妖怪歳時記

ジャラジャラ、小豆を研ごうか、人を獲って喰おうか…。北海道は白老町、ボンアヨロ川の河原でアズキを洗っていた渡辺電機(株)さんだが、ヒグマの親子がばしゃばしゃ水しぶきを上げて向こう岸から近づいてきたので、半狂乱で泣きわめきながら、四つん這いで逃げ出した。さいわい、クマの目当ては小豆で、渡辺電機(株)さんを追ってくることは無かったが、不用心に野外でおばけの真似事などするから、こんな怖い思いをすることになる。やっぱり北海道の自然、ナメちゃいけないね!そう言って美味そうにレモンサワーを飲み干す渡辺電機(株)さんだったが、カウンターの中の大将がウフフフッとくぐもった笑い声を上げたかと思うと、明かりが消えた。居酒屋のカウンターと思われたそこは、先程の河原だった。夜の闇にせせらぎの音だけが響き、口の中には動物の尿の味が広がった。

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おばけは死なない

朝は寝床でグーグーグー♪、夜は墓場で…イーッヒッヒッヒ!!好色そうな満面の笑みを浮かべ、首から双眼鏡をかけ、ブタの蚊取り線香を小脇に夕暮れの墓地の中へスッ飛んでいった渡辺電機(株)さんだが、いまどき墓場でイチャイチャしようなどというカップルがいるわけもなく、完全に日が没した頃には、真っ暗な墓場から、イヤーンかゆーい!と悲鳴を上げながら、顔面から両手両足までパンパンに腫らして、泣きながら逃げ出して行った。今ではすっかり丸くなり、実家のある境港市の土産物屋に勤め、静かに暮らしているという。

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義烈の士

昭和20年に東京大空襲で亡くなるまで、98年の生涯を生き抜いたという最長寿の新選組隊士、古田榮三郎の生涯を漫画化すべく取材を続けていたのだが、明治24年に性転換手術を受け、古田とよに改名との記述を発見。では、空襲で亡くなった榮三郎は別の人物なのか。晩年の榮三郎に可愛がられたという曾孫の古田聖人さん(76)にお時間を割いていただき、話を伺った。70年以上も昔の幼少期の話ゆえ記憶も曖昧という古田さんの話は矛盾も多い上に二転三転、ついにはモンゴル語が混じりだすに及んで、さすがのおれも気づいた。横綱、イタズラやめてよ。愉快そうに笑って変装を解く横綱の姿を見ていると、なんかもう腹も立たない。こっちもつられて、笑ってしまった。取材も、また一からやり直しである…。

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俺たちの朝

ちょっとした行き違いからガンダムを操縦することになってしまった渡辺電機(株)さんだが、元々車の運転にもまったく興味がなく、争いを好まず暴力を何より嫌う性格もあって少しも気乗りせず、搭乗するだけでモタモタ、見るからに不器用な様子はブライトさんを苛立たせた。コックピットの開け方もわからずおろおろする後ろ姿に逆上、そこのレバー下げる!と叱責して、ようやくハッチが開いたところへ尻を蹴り上げて渡辺電機(株)さんの身体を押し込める。尻の下でこもったような衝撃音がして、思わずブライトさんと顔を見合わせ、身体を起こす。エンジン点火用のレバーが、根元からポッキリ折れている。ブライトさんは思わず舌打ち、自分にも降りかかるであろう責任と処罰を恐れ、とにかくどうにかしとけ!と吐き捨てると、逃げるようにその場を立ち去った。鳴り響く警報のブザーが爆発音にかき消され悲鳴が上がる中、渡辺電機(株)さんはコクピットの中でなおももじもじ、取れたレバーをくっつけてみてはため息をつくなどムダな時間を過ごし、やがてしゃくりあげながら、どこかへ行ってしまった。今では、故郷の高槻で主婦向けのアンティークカフェを開き、静かに暮らしているとのことである。

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春よ来い

元旦のおひるごはんはおしるこか否かで激論を戦わすうちに、安倍総理は感情を高ぶらせ、泣き出してしまった。国会での野党の追及を、あれほど豪胆な笑顔で捌いていた総理が、である。おしるこ…おしるこ…泣きじゃくりながら、何度もくり返す総理。その耳元で、お時間がと囁く秘書。多忙な時間を割いておれに会いに来てくれながら、こんな空気になってしまったのは気の毒だったが。気を取り直して身なりをととのえ、背筋を伸ばして一礼し、出て行こうとする総理に、小さな膳を差し出す。総理、これサプライズ。すでに政治家の顔になり、緊張感を漂わせていた総理は、鼻孔をひくひくさせたかと思うと破顔一笑、おしるこじゃーん!と、小学生のような歓声を上げた。総理、もう会議が…。慌てて遮ろうとする秘書を、いいからいいから、すぐ終わるからと制し、ほふほふ熱い…!と言いながら、おしるこを掻き込む、そのあどけない姿。おれだけが知っている、少年のように無邪気な安倍総理。ん、元気出た!ごちそうさん!元気よく飛び出して行く。まだまだ、アベ政治は健在だ。軽くスキップを踏み公用車へ向かう後ろ姿を、たのもしく見送った。

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日本近世文学史講義

白鵬に 釣瓶とられて もらひ水。約三百年の昔、元禄時代の女流俳人加賀千代女が残した有名な句だが、まさかあの横綱の四股名は、ここから名付けられたのであろうか?だとすれば、宮城野親方も意外な風流人だ。だが、質問を受けた横綱は一笑に付し、言った。あの歌。あれは、おれのことっす。え、どういうことなの。あれは、おれ。おれが当時、たまたま稽古まわしを自宅に忘れちゃって、部屋の隣に住んでた加賀のなんとかいうチャンネーが井戸に使ってたロープを、勝手にまわし代わりに使ってたのよ。なるほど、それで加賀千代女は水を汲めずに…。そう、おれがションベンを飲ませてやってたってワケ。もらい水ってそういうことよ。そ、そういうことですか…。言葉に詰まるおれを一瞥、横綱が立ち上がる。やっぱり信じられないよね、実際に飲んでみないと。浴衣の前をはだけて、ゆっくりとこちらに向かってくる。ああ〜〜ションベンしてえな。そういって首をぐるぐると回しながら近づいてくる横綱から、おれはなぜかすくんだように、逃げ出すことができなかった。

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