渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

夢幻の如く

結局、安アパートの床の黒い人型のシミ以外に何一つこの世に残すことができなかった渡辺電機(株)さんのことを、人々はすぐに忘れ去った。その部屋は事故物件として格安で貸し出され、次に入居した若者の夢枕に何度か渡辺電機(株)さんが立ったが、若者が見上げて舌打ちをすると、申し訳なさそうにウフフッと笑い、消えたという。やがて若者はマンガの新人賞を受賞し、たちまち人気作家となり、快適な暮らしを求めて大きなマンションに引っ越して行った。漫画界の若きリーダーとして「徹子の部屋」に出演したその若者が、徹子の目の前でためらいもなく陰茎を取り出し、紅茶にタポンと浸して軽くかき混ぜながら、お茶はやっぱりこの飲み方に限りますね!と笑うその姿は、完全にかつての渡辺電機(株)さんに生き写しだった。その頃、あの安アパートの無人になった部屋の床には、清掃業者が消したはずの人型の黒いシミが浮き上がり、悔しそうにヒクヒクと蠢いていた。

定盤 火の宮

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