桃太郎が宝の山を持って帰ると、家は跡形もなく、おじいさんとおばあさんもいませんでした。ま、ゴミ屋敷で死んでるよりはマシか。あっさり気持ちを切り替えた桃太郎は、宝の山を換金してFX投資で転がしてなんとかやって行こうと考えましたが、御徒町の宝石屋で案外安く買い叩かれ、マンションの敷金礼金を払ったら、もういくらも残っていません。けっきょく、バイト生活か…。いつの間にかサル、キジ、犬ら仲間も野生化したり逃げたりでいなくなり、桃太郎は分不相応なマンションの家賃のためにバイトに明け暮れるような、その日暮らしの無味乾燥な都会生活の中で、日々心をすり減らして生きて行きました。そんなある日、寝しなのエロ目当てネットサーフィンで偶然見つけた、海外暮らしをしながら日本の文化や社会慣習のおかしさをユーモラスに嘆いてみせる老夫婦のブログ。なつかしいおじいさんとおばあさんに違いありません。読めば、南仏ノネナール海岸に住み、ブログの広告収入で裕福な暮らしをしている模様。桃太郎の中で、何かが弾けました。殺したる。引っ越したまま山積みのダンボールを開き、かつて鬼退治で着ていた衣装をまとい、鬼の血に染まった「日本一」の幟を背中に差し、玄関のドアを開くと、そこには、あのサル、キジ、犬が、静かに彼を待っていました。キビダンゴ、そこのコンビニのでいいよな？黙って付き従う三匹。桃太郎が成田エクスプレスの無賃乗車で取り押さえられる、数十分前のことでした。
