渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

潜航艇岩風

土俵の鬼と呼ばれた初代若乃花に対して土俵の天女と呼ばれた渡辺電機(株)さんは、若乃花の良きライバルとして土俵を盛り上げ、1950年代の終わり頃から数年間に及ぶ渡若時代を作り上げた。そのスピードと怪力で相手を土俵に叩きつける豪快な若乃花の相撲に対し、渡辺電機(株)さんの相撲は争いごとを潔しとせず、あくまで話し合いと交渉、それも大抵は弁護士を伴って法的に相手を追い込んで納得させる戦法で、しばしば論議の的となった。渡辺電機(株)さんとの初顔合わせで徹底的に追い詰められ巨額の借金を背負って敗れた当時の横綱鏡里は、こんなの相撲じゃねえと捨てぜりふを吐き、そのまま引退したという。そんな渡辺電機(株)さんが、どうやって三回の戦争をくぐり抜け、300歳を超える今に至るまで生き永らえているのか。話したら、長ごなるで?タンクの培養液に浮かぶ脳髄が、ニヤリと笑ったように見えた。

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Be My Baby

ホテ〜〜〜。ホテ〜〜〜。奇怪な鳴き声の主を確かめるべく、虫取り網と虫カゴを持って夜の墓場に潜入した渡辺電機(株)さんは、布袋家代々之墓と書かれた立派な墓碑の前でバッタのような格好で長い手足を折り曲げ、虫になりきってホテ〜〜、ホテ〜〜〜と鳴き声を上げる布袋寅泰さんを見て、息を呑んだ。ホテーさん何してはるんですか?声をかけようとして思いとどまり、最大限の敬意を払って、敢えて氷室京介の声真似で話しかける。何しチェるんですかゥ。振り返った布袋さんの眼は、肉食昆虫の巨大な複眼だった。墓場に響く、悲鳴。ややあって、再び夜の闇の中に、ホテ〜〜〜。ホテ〜〜〜。虫の鳴き声が、静かに鳴り響いた。

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新世紀への運河

豪華客船「渡辺電機(株)號」の進水式パレードに、渡辺電機(株)さん本人はとうとう現れなかった。やっぱり魔除けの人柱にされたという噂は、本当だったのかしら。人々が囁きあう中、鼓笛隊の吹き鳴らすファンファーレが青空に響き渡り、花火が打ち上がる。かもめの群れが舞う中、雄大な汽笛を残して、大富豪5000人を乗せた渡辺電機(株)號の世界一周クルーズが、始まった。エンジン音も重々しく、ゆっくりと進み出す渡辺電機(株)號。その舳先にひるがえる、明らかに人の形をした旗が、誰の皮で作られたのか。もう、確かめるまでもなかった。

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ハッピー興行社

見世物にしてひともうけしようと南の島から持ち帰った巨大なタマゴが孵化して怪獣が生まれてしまい、経営していたレジャーランドが破壊されるのを見た渡辺電機(株)さんは、社長室の金庫の中の金を持って逃げようと、逃げ惑う社員たちをかきわけて本社ビルのエスカレーターを駆け上がっていった。そして金庫を抱えて逃げようとして、ふと振り返った窓の外に、怪獣の巨大な眼。あ、これ映画で悪人が死ぬパターンや。観念した渡辺電機(株)さんはぺたりとその場に尻餅をつき、せめてこの世の最後の快楽をと、思い浮かぶ限りのエロ単語を叫びながら、恐怖でちぢこまった陰茎を必死で弄び始めた。ちんこ!おしり!おっぱい!えーと、おなら!貧弱な語彙と乏しい性経験ゆえろくな言葉が思い浮かばず、「もう!」と涙目で癇癪を起こす渡辺電機(株)さんを哀れに思ったのか、怪獣は静かに羽ばたき、どこか遠くへ飛び去った。平和が戻り、渡辺電機(株)さんも心を入れ替え、今では世のため人のために尽くす真人間として、清く正しく暮らしているという。

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サイレント・ランニング

巨大アリゲータの背中にまたがり、霞が関に颯爽登場!逃げ惑う町の人々を嘲笑しながらバナナを貪り食う渡辺電機(株)さん。日頃さんざんおれのことをバカ、キチガイ、ひょっとこ、売春婦、かえる、ドン百姓、奴畜、デンドロカカリヤ、アメリカシロヒトリ云々と馬鹿にしやがってよう!ザマぁねえな!ようよう姐ちゃん、パンタロンがいかしてるね、乗らない?だが、有頂天の渡辺電機(株)さんが、八百屋の店先で主人を恫喝しバナナをせしめて振り向くと、今まさにアリゲータの巨大な尻尾が、水しぶきを上げてトプンと皇居のお堀に消えていくところだった。それッ!ワニがいなくなったらもう怖くねえぞ!それまで怯えて渡辺電機(株)さんの言いなりだった霞が関の官僚、皇居前の警備員、最高裁判事、お堀の河童、首相、ウズベキスタン大使館の職員らが、手に手にヌンチャクやおたまを持って、渡辺電機(株)さんを追いかけ始めた。うへぇ、かんべんしておくれよう。皇居の周りを走って逃げる渡辺電機(株)さん。これが、皇居ランナーたちの発祥と伝えられている。

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野望の王国

エッチなおじさんが総理大臣になっちゃいけねェって決まりでもあんのか?そう言ってぷぅっと頬をふくらます細野豪志代議士に、渡辺電機(株)さんは決まりなんかねぇけどさ、やっぱりエッチなだけじゃダメなんだろ?そう言いながら、ナメクジの干物を勧めた。エッチなだけじゃねえよ!不機嫌に吐き捨てると、細野は差し出されたナメクジを残らずわしづかみにして、一気に口の中に放り込む。おれだって色々考えがあんだよ。福祉だろ、税金だろ、えーとそれから…まぁその、色々だ!おれにゃあむつかしいこたわかんねえけどな、人の道だけは外れちゃなんねぇって思ってンだ!渡辺電機(株)さんはただただ感心して、細野の話を聞いている。やっぱこいつ、学あンなァ…。そんな細野が本当に総理大臣どころか初代日本国大統領になる日が来ようとは…。嬉しさでいてもたってもいられなくなった渡辺電機(株)さんは、ブルーシートの自宅から這い出し、なけなしの小銭で買ったワンカップを祝いに手渡そうと、人並みをかき分けてパレードの先頭を行く細野のオープンカーに近づいた。おーい細野ちゃん、エッチなおじさん、おれだよーう。車上から一瞥をくれた細野がアゴを軽く動かすと、音もなく現れた警官が渡辺電機(株)さんをアッというまに組み伏せてパトカーに押し込み、群衆に気づかれることもなく走り去った。長く暗い独裁政治の、幕開けだった。

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月夜見

よう彼女、お茶飲まない。渡辺電機(株)さんの下品な誘いに、安倍総理は一瞬ギョッとして立ち止まり振り返ったが、やがて気を取り直し、冷たい拒絶の言葉を浴びせる。女房が待ってんだろ、おっさん。渡辺電機(株)さんは意に介さず、無遠慮な手を総理の肩に伸ばす。失礼な、まだ若いのよお。鳥肌。おっさん相手にするほど不自由してないんだよっ!汚らわしい手を振り払い、立ち去る総理の背中に、悔し紛れの罵声を浴びせる渡辺電機(株)さん。はんっ!嫁のもらい手ないよっ!足早に夜道を官邸に向かいながら、安倍総理の心がざわつく。わたしはそんなに、匂うのだろうか。私の中の雌を嫌悪する、もうひとりの私。空には、紅い満月。

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