渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ひとつ上の男

ルロロロロォ〜ドールゲェ〜〜!魔人渡辺電機(株)ルゲの出現で、街は阿鼻叫喚の地獄と化した。人々は我先に逃げ惑い、子連れの主婦は眉をひそめ、隣に座られた若い女性は黙って席を立ち、学生たちは指差して嘲笑い、商店主は血相を変えハタキを振り回して追い払い、声をかけようとした風俗店の客引きも慌てて口をつぐみ、踵を返した。なけなしの小銭でドトールのコーヒーを買い求め、レジで対応した若い店員にすがりつくように話しかけるも相手にされず、すごすご引き下がり一階の隅の席に腰を下ろすと、隣の席の若いカップルが目配せをして、黙って店を出て行った。本当に、こんなおれでも世界征服の役に立てるのだろうか…。このように改造当初は気弱で人々に蔑まれていた渡辺電機(株)ルゲも、バロム1を倒したのを境に自信を持つようになり、朗らかになり、今では誰もがたくましい男性として認めてくれます。みなさんもドルゲの改造手術、受けてみませんか?

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夏わかば

JR東日本仙山線山寺駅ホームで無許可で、なめくじ弁当を売っていた渡辺電機(株)さんを捕縛して処罰すべく、現地へ向かったJR東日本法務部特命部隊だが、みすぼらしい乞食同然の姿で、カップ麺の空き容器に盛られた冷や飯に、おたまで生きたなめくじを山盛りにして、白ネギを載せて甘辛ダレをかけて売っている渡辺電機(株)さんを見て、言葉を失った。こんなもの、誰が買うんだ?おいあんた、儲かってるのか?声をかけると渡辺電機(株)さんはヒヒッと甲高い声で笑い、舌もとろけるなめくじ弁当、いらんかね〜。歌うように売り文句を吟じると、その姿はスーッと谷あいの薄闇の中へ溶け込んで、消えてしまった。夕暮の迫る無人の駅に、晩夏の蝉しぐれだけが、鳴り響いていた。渡辺電機(株)さんがこの駅のホームでなめくじを食べて亡くなったのは、何十年も前のことだという。
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Free as a bird

三日月の夜、烏天狗を祀る愛宕神社の境内で、カラスを殺して生き血をすすった渡辺電機(株)さんは、カラス人間に変身してしまった!ケーッケッケ!思った通りだ!闇夜に漆黒の羽毛をギラつかせ、鋭いくちばしから真っ赤な舌を出して笑う渡辺電機(株)さんは、そのまま夜行バスで彦根市に直行、琵琶湖畔で行われる鳥人間コンテスト会場に姿を現した。エントリーナンバー、666。漆黒の闇の使者。コールされ、怪鳥音を発して登場したカラス人間の渡辺電機(株)さんの姿に、会場は最初は爆笑に包まれたが、彼が宙を舞い、場内の人々を襲って喉笛に鋭いくちばしを突き立てるに及び、場内は阿鼻叫喚の地獄と化した。思い思いの滑稽な人力飛行機で逃げ惑う参加者達を追いかけて青空を舞い、一人また一人と餌食にして行く渡辺電機(株)さん。鳥人間の意味を履き違えていたことを、彼に教えてやれる者も、もういなかった。

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とびだせ青春!

ハミチンハンターの異名を取る鬼才カメラマン渡辺電機(株)さんは、今日も近所の黒竜工業高校ラグビー部の練習グラウンドを望遠レンズで捉え、奇跡のシャッターチャンスを狙っていた。突然、ファインダーが画面いっぱいのドス黒い陰茎で埋め尽くされ、渡辺電機(株)さんは思わず顔を上げた。横綱、マジで邪魔しないでよ。生活かかってんだから。横綱は稽古まわしの脇からはみ出させた陰茎をプロペラ状に回転させ、いたずらっぽく舌を出して笑った。ハミチンなら、ウチの部屋に来れば腐るほどあんじゃん。いやもう、相撲とりのチンポは個展2回開いて写真集も出したし、そろそろ新機軸が欲しいんだよね。ふーん、そういうもんかね。陰茎をしまい、横綱は両手を口に当ててグラウンドの選手たちに声をかける。おーい、がんばれよ!一瞬動きを止めた選手たちが、口々に横綱だ横綱だと言い合いながら、こちらへ走ってくる。ほらー邪魔しないでつってんのに…。顔をしかめて見上げるおれに、横綱はまぁ見てなよ、と顎で選手たちを指し示した。夢中で先を争って駆けて来る選手たちは、我先に互いの肩をつかみ服を掴み、ついにはパンツに手をかけ引きずり下ろし合った。ほら、ハミチン撮り放題だろ。愉快そうに笑う横綱と、青空に響くシャッター音。9月に入れば、秋場所もすぐそこだ。

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#9 Dream

電機さん、お金貸して!人懐っこい笑顔で両手を合わせて腰をかがめる安倍総理を見ていると、返す気がないと分かっていても、ついつい貸してしまう自分の甘さ。選挙のたびにこの手口の繰り返しで、今までに一体いくら用立ててきたのか。「あそこにベンツが見えますね」突然現れた横綱が、裏の沼地に打ち捨てられている錆びついたオート三輪を指差した。いや、あれベンツちゃうよ。言いかけて、横綱の口の端からよだれの糸が伝い落ちているのに気づき、口をつぐんだ。横では、金の話は忘れてしまったのか、総理がぴょんぴょん飛び跳ねながら、うーうーと奇声を発している。困ったもんだなと肩をすくめつつ、おれも目を開ければ、そこに総理や横綱の姿は無く、拘束衣に包まれた全身と白い部屋が、嫌でも目に入ってしまう。いつも食事を運んでくる機械ナースが、今朝はいっこうに来る気配がない。今が一体いつなのか、外の世界がどうなっているのか、おれに知るすべも無かった。

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LIVE!! オデッセイ

「BANDやろうぜ」に「当方Vo. 全パート募集。完全プロ志向」とのメン募を載せて集まってきたのが全員楽器の弾けない相撲とり十数名だったので、やむなく力士合唱団を結成して、「静かな湖畔」の輪唱などを教えた。当初は鈴やカスタネットすら音を揃えられないトンチキぶりに激昂して、力まかせに体当たりをかましては跳ね返されて大怪我を負う日々だったが、鍛えた足腰のおかげもあって上達めざましく、ついに今日、慈善大相撲の晴れ舞台で輪唱を披露する機会がやってきた。力士たちの奏でる美しいハーモニーに客席は魅了された。拍手喝采を浴び、引き上げる我々とすれ違う横綱白鵬は、傷だらけのストラトキャスターを手に、刃のような言葉を浴びせてきた。「おいカス!てめえらニューミュージックに転向しろ!」横綱の気迫に圧されて静まり返る場内。土俵上でチューニングを合わせながら、不敵な笑みを浮かべる横綱。「今なら悪魔みてえな音出してやる」「フルボリュームでI Shot the Sheriffだ。ボブ・マーレイに捧げる」後はもう、横綱の独壇場。合唱団の力士たちもお揃いのスモックを投げ捨て、土俵上で踊りだす。熱狂する観衆を背に、おれは黙って国技館を後にした。

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渚にて

須磨の海岸の波打ち際をヘラヘラ笑いながら歩いていた渡辺電機(株)さんは、屈強な3人のヤンキーに取り囲まれた。はい兄ちゃん、お金出して。笑顔のまま歩みを止めず、そのままヤンキーの厚い胸板にぶつかった渡辺電機(株)さんは、泣いているようなクシャクシャの顔でキヒヒッと笑うと、スーッとヤンキーの身体を通り抜けて背中から現れ、なおもヘラヘラ笑いながら歩き続けた。よく見ると足が地面から離れて、体が宙に浮いたまま、すべるように移動している。むむ、むじなだーっ!!ヤンキーたちは腰を抜かして、泣きながら先を争って四つん這いで逃げ出したが、寄せては返す波にひとりふたりと飲み込まれ、海中に消えていった。とうの昔にこの世のものではなくなってしまった渡辺電機(株)さんは、誰もいなくなった波打ち際を、なおもヘラヘラ笑いながら、歩き続けた。こんな妖怪でも、コミケ当日には接客に買い出しに、大張り切りの一日を過ごすのだ…。

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