渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

義烈の士

昭和20年に東京大空襲で亡くなるまで、98年の生涯を生き抜いたという最長寿の新選組隊士、古田榮三郎の生涯を漫画化すべく取材を続けていたのだが、明治24年に性転換手術を受け、古田とよに改名との記述を発見。では、空襲で亡くなった榮三郎は別の人物なのか。晩年の榮三郎に可愛がられたという曾孫の古田聖人さん(76)にお時間を割いていただき、話を伺った。70年以上も昔の幼少期の話ゆえ記憶も曖昧という古田さんの話は矛盾も多い上に二転三転、ついにはモンゴル語が混じりだすに及んで、さすがのおれも気づいた。横綱、イタズラやめてよ。愉快そうに笑って変装を解く横綱の姿を見ていると、なんかもう腹も立たない。こっちもつられて、笑ってしまった。取材も、また一からやり直しである…。

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俺たちの朝

ちょっとした行き違いからガンダムを操縦することになってしまった渡辺電機(株)さんだが、元々車の運転にもまったく興味がなく、争いを好まず暴力を何より嫌う性格もあって少しも気乗りせず、搭乗するだけでモタモタ、見るからに不器用な様子はブライトさんを苛立たせた。コックピットの開け方もわからずおろおろする後ろ姿に逆上、そこのレバー下げる!と叱責して、ようやくハッチが開いたところへ尻を蹴り上げて渡辺電機(株)さんの身体を押し込める。尻の下でこもったような衝撃音がして、思わずブライトさんと顔を見合わせ、身体を起こす。エンジン点火用のレバーが、根元からポッキリ折れている。ブライトさんは思わず舌打ち、自分にも降りかかるであろう責任と処罰を恐れ、とにかくどうにかしとけ!と吐き捨てると、逃げるようにその場を立ち去った。鳴り響く警報のブザーが爆発音にかき消され悲鳴が上がる中、渡辺電機(株)さんはコクピットの中でなおももじもじ、取れたレバーをくっつけてみてはため息をつくなどムダな時間を過ごし、やがてしゃくりあげながら、どこかへ行ってしまった。今では、故郷の高槻で主婦向けのアンティークカフェを開き、静かに暮らしているとのことである。

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春よ来い

元旦のおひるごはんはおしるこか否かで激論を戦わすうちに、安倍総理は感情を高ぶらせ、泣き出してしまった。国会での野党の追及を、あれほど豪胆な笑顔で捌いていた総理が、である。おしるこ…おしるこ…泣きじゃくりながら、何度もくり返す総理。その耳元で、お時間がと囁く秘書。多忙な時間を割いておれに会いに来てくれながら、こんな空気になってしまったのは気の毒だったが。気を取り直して身なりをととのえ、背筋を伸ばして一礼し、出て行こうとする総理に、小さな膳を差し出す。総理、これサプライズ。すでに政治家の顔になり、緊張感を漂わせていた総理は、鼻孔をひくひくさせたかと思うと破顔一笑、おしるこじゃーん!と、小学生のような歓声を上げた。総理、もう会議が…。慌てて遮ろうとする秘書を、いいからいいから、すぐ終わるからと制し、ほふほふ熱い…!と言いながら、おしるこを掻き込む、そのあどけない姿。おれだけが知っている、少年のように無邪気な安倍総理。ん、元気出た!ごちそうさん!元気よく飛び出して行く。まだまだ、アベ政治は健在だ。軽くスキップを踏み公用車へ向かう後ろ姿を、たのもしく見送った。

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日本近世文学史講義

白鵬に 釣瓶とられて もらひ水。約三百年の昔、元禄時代の女流俳人加賀千代女が残した有名な句だが、まさかあの横綱の四股名は、ここから名付けられたのであろうか?だとすれば、宮城野親方も意外な風流人だ。だが、質問を受けた横綱は一笑に付し、言った。あの歌。あれは、おれのことっす。え、どういうことなの。あれは、おれ。おれが当時、たまたま稽古まわしを自宅に忘れちゃって、部屋の隣に住んでた加賀のなんとかいうチャンネーが井戸に使ってたロープを、勝手にまわし代わりに使ってたのよ。なるほど、それで加賀千代女は水を汲めずに…。そう、おれがションベンを飲ませてやってたってワケ。もらい水ってそういうことよ。そ、そういうことですか…。言葉に詰まるおれを一瞥、横綱が立ち上がる。やっぱり信じられないよね、実際に飲んでみないと。浴衣の前をはだけて、ゆっくりとこちらに向かってくる。ああ〜〜ションベンしてえな。そういって首をぐるぐると回しながら近づいてくる横綱から、おれはなぜかすくんだように、逃げ出すことができなかった。

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プロレスの鬼

徴兵を免れたい一心で、尻に星条旗の刺青を彫った渡辺電機(株)さんだが、その場で検査官に、星条旗を踏みにじる昭和天皇の似顔絵をボールペンで書き込まれ、泣き喚きながら兵舎の方へ引きずられて行き、そのまま戻って来なかった。やがて戦争も終わり、誰もが戦死したものと思っていた彼がひょっこりと地元に姿を現した時、彼に気づく者はいなかった。ただ一人、力道山を除いては。昭和プロレス史に残る血の惨劇が、幕を開けようとしていた。舞台は、赤坂のクラブ「ニューラテンクォーター」。トイレに立つ力道山の背後を、油断なくバナナと伊達巻を両手にかまえ、静かに近づく渡辺電機(株)さんの影。歴史の歯車が、ゆっくりと回り出す…。

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死せる者たちの宴

どういうわけか、ジョージ・A・ロメロ監督直々のご指名で、リビングデッドシリーズ最新作のメガホンを任され、論議を呼んだ渡辺電機(株)さんだが、いざ試写会のスクリーンに登場したゾンビたちが、白装束で頭に三角の白い布をつけ、両手を前に「おばけー」「ゆうれー」と口走りながら、ハリボテの墓場をよちよち歩き回ると、試写会場内に失笑と罵声が巻き起こり、スクリーンに生卵や納豆、オクラ、とろろ芋、めかぶ、アボカド、漬けマグロ、大葉、炊きたてご飯が投げつけられ、ステージ上には次々と美味しいスタミナ丼が出来上がっていった。試写会に訪れた人々は舌鼓を打ち、満足して帰って行ったが、スクリーンに映し出されたゾンビ役の俳優が全員、中川一郎や新井将敬、永田寿康ら自殺した筈の政治家であることには、誰一人気づく者はいなかったという。そして渡辺電機(株)さんの行方もまた、それきり分からなくなってしまった。

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しあわせさん

ドンキーコング3で最高点を叩き出し、東海テレビ「ファミっ子大集合!」で一躍人気者になった渡辺電機(株)さん。あれから30年、いまどうしているのか。「あの頃は寝る間もなくTV、イベント、講演と大忙しで、稼いだお金も使うヒマがないくらい。おかげさまで、今でも年に数回のイベントにお呼ばれする程度ですが、生活にはまったく困っていません。前歯?ああこれ、この間酔って自宅の階段を転げ落ちちゃって、アハハ。いや、だから自宅はお見せ出来ないんです。だから言うてるやろ、2DKのマンションやマンション!なんや!これか、この紙袋はあれや、ちょぉそこまでゴミ捨てに、誰が全財産や!ちゃうわ!酔うてへんぞこら。風呂なら入っとるわ!おおおまえわかったぞあれか、オウムやな!なんや!やめんかい!さらわれる!電機さらわれる!パパたすけて!パパー!!

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