渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

宇宙浮浪者

ケツから万華鏡のように放射される色とりどりの排泄物が宇宙空間に舞い散っていくのをボンヤリ眺めながら、背後から射してきた強烈な光に振り返ると、東の空に巨大な手塚治虫のハゲ頭が上ってきました。巣穴に帰る時間が来たようです…。朽ち果てた気象衛星の残骸の内部に潜り込み、渡辺電機(株)さんは再び永い眠りにつきました。

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おれのシルヴァーマシーン

どうだいおれの銀のマシン、かっちょいいだろう!そう言ってサビだらけの三輪車に乗って、キコキコと鈴鹿サーキットのコース上に現れた渡辺電機(株)さんを前に、ミハイルは言葉を失った。先に行きなよ。おめえのフェラーリなんざ、後ろに貼り付いて130Rでブっちぎってやんよ!ああ、この人もうあかんねや…。得意満面でスタートグリッドへ向かう渡辺電機(株)さんの背中を、ミハイルは哀しい思いで見つめた。見つめながら、だんだん何故自分がここにいるのか、わからなくなった。割れるように頭が痛む。痛いよ、電機さん。そうかミハイル、やっと目が覚める時が来たんだな。ぐにゃりと歪む視界の中で、渡辺電機(株)さんが寂しそうに微笑んだ。起きる前に、勝負つけたかったけどな。じゃあな。皇帝シューマッハの永い永い睡りに、ようやく終わりが訪れようとしていた。

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人生劇場

二所ノ関部屋に入門して苦節15年、やっとのことで掴んだ関取の座だが、四股名が渡辺電機(株)で変な上に性格も悪く、相撲っぷりも地味かつ反則スレスレで悪辣、常軌を逸したカギ鼻と耳まで裂けた口のため見栄えも良くない。おかげでタニマチもつかず、晴れの十両土俵入りのための化粧廻しが作れない。仕方がないのでせめて失礼のないようにと、就活時に親が作ってくれた紺色のスーツに革靴で、土俵入りの列に加わった。これが奇抜で面白いと客に大受け、協会も集客アップにつながるのでどんどんおやりなさいと後押ししてくれたため、今では電機メーカーの営業マンというギミックで、立ち会いの前に名刺を差し出して相手に払いのけられるという演出で、喝采を浴びている。批判も多いが、相撲自体は強いので白鵬、豪栄道あたりは適当に責めさせておいて、土俵際で吊り上げて土俵外に投げ飛ばす横綱相撲でやっている。勝ち名乗りの際に名刺交換のテイで懸賞金を受け取る演出もあるので、最後まで気は抜けない。そんな人気力士としての華やかな日々も、海底王国からの迎えの使者が来て、終わった。今では海の底で亡父の跡を継ぎ、王として国を治めている。

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コールドターキー

ジョンレノン氏がビートルズでレコードデビューしてから殺されるまでたった18年しか無かったので、まあ随分凝縮された人生だなと、その容貌の変化を見てもあらためてビックリするのだが、おれが渡辺電機(株)でデビューして18年後に殺されてたとしたら、あの時点か。ああ、それは長い年月に感じるな。というように、人間にとっての年月の感覚は個人的な体験に左右されてどうにでもなってしまうので、もう2万年も生きたウルトラマンが死にかけてあのように取り乱し、いのちを2個くれハヤタのぶんもくれと泣すがってゾフィを呆れさせたのも、仕方のないことであった。しかも、まだ我が家に居座って帰る気配もないのだ…。

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新世界の若大将

通天閣の巨大な文字盤の一番上に全裸で磔にされ晒された渡辺電機(株)さんは、命からがら東へ落ち延びたが、己を愚弄した大阪市民への怨みを決して忘れなかった。通信教育でディベート術を学び、ネットに載っていたケンカ必勝法のテキストを購入し、ユーチューブの燃えよドラゴンの動画を何度も見ては闘気を溜め、捲土重来を期して夜行バスで大阪へ再度攻め上った。だが車中で、ナイフをなめる己の姿を手鏡に映してテンションを上げているのを添乗員に見咎められ、深夜の足柄S.A.でおろされ、警察に引き渡された。その後、彼を見た者はいない。

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やきそばの秘密

焼きそばパンに挟んであるのが、あのしなしなでソースの染みたニョロニョロの粉の塊でなく、本格的なアツアツカリカリの上海焼きそばだったら、かえって微妙な味になってしまうのでは?いや電機さん、そんなんメッチャ美味いやろ!いや〜どうですかね。こうして、横綱土俵入りを途中で放り出し、おれを伴って福岡国際センター近くのガストに飛び込んだ横綱が、運ばれてきたアツアツカリカリの上海焼きそばを、持参したコッペパンにぎゅうぎゅう押し込む。その無邪気なその姿にウットリと見とれているだけで、おれは幸せだった。横綱のスマホが何度も震えたが、意に介さずパンと格闘する横綱の今場所の復活優勝を、おれは願わずにいられないのだった。

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海岸物語

体長2mほどの巨大エビが水揚げされたというので、おれも久々に里へ降りてみた。子どもたちに石を投げられたり、犬に吠えられたり、子供の頃あんなに可愛がってくれた乾海苔はがしの婆までが、おれを見忘れたか腐ったイワシの腸を投げつけて罵ってきた。砂浜の人だかりは畦道からも遠目によく見え、巨大エビもそこに横たわって木の枝で突かれたり小便を浴びせられたりして、弱々しくもがいている。と、数人の悲鳴が上がるとともに、人垣の上からポンポンと人間の生首がふたつ、みっつと宙に舞い、間欠泉のような血しぶきが高々と噴き上がった。弱ったかに見えた巨大エビは今や巨大なハサミを振り回して人々の首をはね、恐ろしい尻尾の跳躍力で自在に跳び回り、逃げ惑う村人を一人ずつ確実に襲っては、その命を奪って行った。おれが浜まで降りていくと、もう砂浜も海面も、辺り一面が血潮で真っ赤に染まり、巨大エビが無数の脚をせわしく動かしながら、死体の腹を食い破って臓物をむさぼり食っている。おうい、横綱。白鵬関ぃ。おれの呼びかけに巨大エビは触覚を跳ね上げて反応し、死体を投げ捨てた。なんだ、電機さんじゃん。雪男かと思ったよ。ひでえな、エビに言われたかねえよ。笑いあって数百年ぶりの再会を喜び合ったおれたちは、乾海苔婆の死体から奪ったキーでプリウスに乗り込み、祝杯を上げるため街へ向かった。

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