渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

西洋道中膝栗毛

オアシスをオエイシスと表記しないと怒る、みたいな人はロック以外のジャンルにも少なからずいて、例えばヴァンダレイ・シウバをバンダレー・シューバと表記されて激怒する格闘技ファンも少なからずいるし、おれもとあるアメリカ人の高名な音楽プロデューサーに紹介された際、相手がおれの名前を「KANDI」とスマホに打ち込んでいるのを見て、思わずリメンバーヒロシマと叫ばずにはいられなかった。まさかそれが、第三次世界大戦にまで発展するとは…。

続きを読む

文藝的な、余りに文藝的な

火曜サスペンスのお色気シーンにチョイ役で出るという話で、いざ現場に来てみたら、AVの撮影だっつーじゃねえか。ふざけんじゃねっての!んでジャーマネにおめ話違うんじゃねつったら、甘ったれんじゃねえぞ風呂に沈められないだけマシだと思えって、甘ったれてんのはどっちだっつの!おれぁ天下の渡辺電機(株)だぞ!したらさあ、それまでエラソーにふんぞり返ってた監督がターーーーっておれんとこ走ってきて、電機先生おれ大ファンですーーーーっ!サインして下さいーーーーーってさ…。もうお祭り騒ぎさ。そんでなんつうかな、気がついたらAV出ちゃってたんだよナ。やっぱプロはスゲえーっつう話で…サ。

続きを読む

怪獣無法地帯

マツケムシは焼くと松の香りがして香ばしくンマいが、よく毛焼きをしないと喉が刺されて大変だよ!と書かれていた「飢餓食入門」の記述を鵜呑みにして、縁日でマツケムシを売って大儲けしようと企んだ渡辺電機(株)さん。虫かごとアミを持って鼻息荒く能登半島は羽咋市海岸の防砂林にやって来ましたが、さんさんと陽光のさす中に波しぶきのあがる、無人の砂浜を見ていたら、もう我慢できません。着ているものを全て脱ぎ捨て、生まれたままの姿になり、妖精のように波間を漂い鈴を転がすような嬌声をあげて、楽しんでいました。浜にもどる頃には身長180mほどに巨大化しており、自衛隊の防戦も虚しく、渡辺電機(株)さんは日本を火の海にして、海に還って行きました。

続きを読む

皇帝のいない八月

風薫る八月!こんな陽気の日は全裸Ingressに限りますね!そう言って皇居北の丸公園をフルチンで闊歩していた渡辺電機(株)さんはたちまち警備員に咎められ、泣きながら半狂乱で逃げまわった。警備員に詰め所の警官も加わり、皆一様に首をかしげ苦笑いしながら次第に追い詰め、石垣からお堀に突き出た松の木の幹にしがみついてワンワン泣いている渡辺電機(株)さんを、どうにか引きずり下ろした。いやいやをして泣き叫ぶのをムリヤリ奪いとったスマホはよく見ると単なる板切れで、拙い字で「イングレス」と書かれていた。なおもしばらく興奮状態で暴れる渡辺電機(株)さんだったが、警官詰め所にあった桃の缶詰を与えたら、おとなしくなったという。

続きを読む

襟裳岬

襟裳の春は何もない春ですとはよく言ったもので、本当にここまで何もないとは。第1回えりもコミックコンベンションのゲストオブオナーに選ばれ、開会のスピーチとサイン会をするためにワザワザ飛行機とバスと日高線を乗り継いでやってきた様似駅前には、駅前商店街どころか駅ビルも無く、辺りには街も住宅も道路も無く、山も海も川も、地面も空も宇宙空間も無く、ただ漆黒の闇に座標を示す無数の点線だけが明滅していた。あの歌は、こういうことだったのか。そう気づいて振り返ったが、もう乗ってきた列車も何も無く、おれは時間のない襟裳の虚無の中に、永遠に佇むことになったのである。

続きを読む

トランプルド・アンダーフット

サングラスをしているのでタモリかと思って、ハナモゲラ語で喚き散らしながら全裸で駆け寄ったら、タモリは3人いた。ビックリして、バンザイポーズで空中に浮かんだまま固まったが、よく見るとタモリではなく、亀田三兄弟だった。時すでに遅くボコボコに殴られ、鼻血を流して土下座、許しを請うた。おれらもこういう稼業やから、とっさに手ぇ出してもうて、悪かったな。そう言って、治療代の万札を握らせてくれて去って行く兄弟の背中を見ながら、おれは泣けて仕方がなかった。タモリの野郎こっちはハダカなのに、なにも3人がかりで…。ふつふつと湧き上がる怒りの感情が、やがて都知事選出馬への熱い想いに変わっていくのは、ごく自然なことだった。

続きを読む

蒼い肖像

近所の広い公園に佇んでスマホをいじくっていると、いつの間にか日が暮れて、誰もいなくなった芝生に、おれの影が長く伸びていた。影はぐにゃぐにゃ揺れたかと思うと、ぷつんと足元から離れて、ゆらゆらと地面を泳ぐように流れていった。ははは、まるでウツボかウミヘビみてえだな。そんなことを思って笑っていたが、おれの影はそれきり何処かへ行ってしまった。影を無くしたおれはすっかり存在感をうしない、誰にも気づいてもらえなくなり、おれ自身にもどこにいるのかわからなくなり、次第に関心を失ってしまった。今では、その行方もわからない。

続きを読む