相手を指差して「ビンゴ」だの、指を鳴らして「チェックメイト」だの「メイビー」だのほざいていたら、クソダサい田舎キザ野郎として誰にも相手にされなくなってしまった渡辺電機(株)さん。東京では通用しなかったキザトークも、ここ津軽五所川原なら…と、さっそく駅前のスナックを訪れたものの、ママのビタイチ聞き取れない津軽弁になすすべもなく、肩を落として店を出て行った。そこからの足取りがふっつりと途絶えて3年後の春。東京向島の料亭で、寡黙で腕の立つ寿司職人として篤い信頼を得ている渡辺電機(株)さんの姿があった。寡黙も道理、その口には常に黒く光るギャグボールが噛まされていたのである。ボールの隙間から透明なよだれの糸を引きながら、黙々と彼が握る寿司は、誰が握るよりも旨かったという。
続きを読む寄席芸人伝
死刑囚0721号、お前は本日午後の死刑執行が決まった。最後の昼食に何か食べたいメニューはあるか。てんぷらッ!!何を?天ぷらッ!!ひでェつばきだね、もちっとやらかく言えねえかい。なら、てんふら〜〜。こうして、最期の日までトボケた応答で看守たちの心を和ませた渡辺電機(株)さんにも、執行の時はやってきた。執行秒読み開始。10。9。8。7。おい、今何時だい。割って入った渡辺電機(株)さんに、看守はつとめて冷静を装い、返す。3時だ。違わい、15時だいッ!おっとっとこりゃぁ参った!しばしの笑いの後、秒読みが再開される。 14。13。12。11。10。9。8。おい、野望の王国は全何巻だい?2巻だろ。否、そいつぁダイジェストのコンビニコミック版だ。ゴラクコミックス版は、28巻だいッ!!うわーマジかぁ!どよめく看守たち。27。26。25。…こうして、とんちを繰り出し続けて40年を超す年月を生き延びた渡辺電機(株)さんが、終戦による恩赦を受け、晴れて塀の外に出てみると、見渡す限りの焼け焦げた無人の瓦礫の山が、どこまでも広がっていた。
続きを読む狼は鎖もて繋げ
夕暮れ時、橋の欄干にもたれて「悲しくてやりきれない」をハモニカで吹いていたら、たまたまベンツで通りかかったホリエモンが聴きつけ、車を停めて降りてきた。雷に撃たれたような表情でその場に立ちすくみ、やがてさめざめと泣き始めた。金の力しか信じない鉄面皮の悪漢が、初めて人の心の優しさに触れたのである。それから彼は、人が変わったように世のため人のために尽くした。西に貧しい子供あれば援助してやり、東に病の子供あれば医者を派遣し、慈悲の心で社会のために私財を惜しみなく投じた。そんなホリエモンに接近して醜い我欲のために金をだまし取った渡辺電機(株)さんを、人々は決して許さなかった。苛烈な公開処刑が、始まろうとしていた。
続きを読むラーメン中毒
「金八先生」第一期の出演者同窓会。たのきんを始め、もう大多数が鬼籍に入ってしまい、出席者はおれを含め数名を数えるのみになってしまった。そのおれもだいぶ体にガタが来ており、いつお迎えがきてもおかしくない。「おい、誰だお前?」鋭い声を浴びせておれを睨みつけてくる、金八先生。なぜか先生だけは、60年前とちっとも変わらない、若々しい姿のままだ。「お前、出演者じゃねえだろう。おい、なぜここにいる?」「まだわからんか。おれだ」息を呑んで絶句する金八先生のこわばった顔が、やがて笑顔に変わる。「お前か、ヴィンセント」「仕事だぜ、ジュールス」どこから見ても若き日の金八先生だったはずの男が立ち上がると、それはもはやダークスーツに身を包んだ、屈強の黒人男性だった。「まずこいつらを片付けようぜ」おれたちは拳銃を取り出すと、呆然とすくんでいる出席者たちを皆殺しにした。「たとえばチーズバーガーを、フランスじゃチーズ・ロワイヤルって呼ぶんだぜ」「チーズ・ロワイヤル!ダハハ!」車中でバカ話に花を咲かせながら、裏切り者を始末しに向かう。今度の仕事も、きっと上手く行く。
続きを読む国会奮戦記
最近は野党の揺さぶりにもスッカリ慣れてしまったのか、何を言われても馬耳東風、カエルのツラにションベンといった風情で、薄笑みを浮かべてだんまりを決め込む安倍総理にしびれを切らしたおれは、民進党若手代表の心意気を見せてやらあ!と、その場でパンツをおろしてイチモツを振りかざし、微動だにしない総理に飛びかかった。動かないも道理、総理はよく見ると、レゴでできていた。一体いつの間に…?誰もおれを制止する者が無いので見回すと、与野党の議員全員、レゴでできていた。人間だけではない、国会議事堂全体が、巨大なレゴだった。この街が、国が、おれを除く地球上すべてのものが、レゴだった。みんな、おれを置いてどこに行っちまったんだ…。
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