渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ぎょうざの街

餃子の具をこねる簡単なお仕事で時給1500円!交通費全支給!の甘言に釣られて面接に臨んだおれは、出された麦茶に口をつけた途端、意識を失い昏倒した。目が覚めた時おれは全裸で、数百人のおれ同様全裸の貧乏そうな男たちとともに、タケノコ、ニラ、ニンニク、キャベツにまみれ、巨大なすり鉢の中にいた。どうやら、具をこねるのではなく、おれ自身が具としてこねられる運命にあるのだ。やがて、すり鉢の縁から覗き込む一つ目の巨人が、スリコギでゴリゴリと裸の男達をすりつぶし始めた。こんな所で餃子になんかなってたまるかよ。ネビュラ星、変身願います!星からの光を受けて巨大なスペクトルマンに変身したおれは、怪獣はどこじゃいと絶叫して表に飛び出して行き、それきり戻って来なかった。今、どうしているのか。

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駅弁泥棒の旅

久しぶりに、北海道広尾のひろお水族館を訪ねてみた。かつてアシカの着ぐるみで「アシカのミミちゃんお絵描きショー」なる演し物をやらされ、客にインチキと罵られユデタマゴやカナブンの死骸を投げつけられる暮らしに嫌気がさし、25年前の夏の夜に柵を越えて脱走した。犬を放たれ山狩りをされ、血だらけで助けを乞うた石ノ森先生に監禁され、マンガを仕込まれさらなる地獄の日々が待っていた。今はもう水族館の跡形もない更地となった無人の原野で、おれは巨大な画用紙とクレヨンを取り出すと、昔のようにクケーとアシカの鳴き真似をしながら、リアルなチンポの絵を描いた。いつしか、頬に涙が伝い流れていた。

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ダイナマイトクッキング

ヒトデを切ったら殖える!と、いうことは〜〜?ポケットを叩いて増えるビスケットの唄って、あれヒトデのことなんじゃね?ということは、ヒトデをオーブンで焼けば〜〜〜!?ナイスアイデアにいてもたってもいられなくなり、息せき切って駆けつけた大森海岸のしながわ水族館の、ヒトデと触れ合う水槽にスッ飛んで来た渡辺電機(株)さんだが、水中で夢中でわしづかみにしたヒトデがやんわりと手のひらに絡みつく感触にキャッと悲鳴を上げ、泣き叫びながら飛び出した国道15号線を行き交う長距離トラックに次々踏まれて、アスファルト上のせんべいになった。おりからの春の陽光に熱せられた屍体はオーブンの中のビスケットのように香ばしく焼きあがり、小さく砕いて水族館のヒトデのエサに供せられたという。

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いたち野郎

この数年に鬼籍に入った偉大な名横綱たち。大鵬、北の湖、千代の富士、隆の里。その遺髪を数本ずつ、さる筋を通じて極秘入手した渡辺電機(株)さんは、実家の庭に勝手に設置した渡辺電機(株)バイオテクノロジー研究所と称する掘っ立て小屋で、DNA合成による史上最強の力士を生み出そうと実験を開始した。ぐつぐつ煮立った熱湯の中に、イモリ、ドクダミ、犬の牙、ラピスラズリ、龍の珠、イカリソウ、土俵の砂、そして四人の遺髪を投入し、ドロドロになるまでかき混ぜる。そしていよいよ、人間の精液を…うやうやしい手つきでチンポを取り出した渡辺電機(株)さんの背後で、2匹のイタチがせわしない動きで交尾に励んでいる。絶頂の快感にのけぞった牡イタチの目の前に、渡辺電機(株)さんが取り出した陰茎の先端があった。思い切りかぶりつくイタチ、絶叫してのけぞる渡辺電機(株)さん。陰茎にぶら下がったまま、遠心力で勢い良く前方に振り回される、2匹のイタチ。つながった生殖器がスポンとはずれ、牝が煮えたぎる液体の中に没すると同時に、牡イタチから放たれた精液が、キラキラと光りながら、液体の中へ舞い落ちる。翌日、イタチの顔をした巨大な力士が街を破壊し、自衛隊の攻撃を振り切って御殿場山中に逃げ込んだ。チンポを失っただけで助かった渡辺電機(株)さんは、二度と力士の合成を試みることはなく、しずかな余生を送ったという。

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ラストエンペラー

吐き気がするほどロマンチックだぜ!これが本当のおれだッ!!ついに念願の生前退位を実現させたおれは、それまでの偽りの笑顔の仮面をかなぐり捨て、ありのままの自分で国民の前に出る決意をした。昨夜MICHIKOに打ち明けると、いつものように優しく微笑み、あなたのしたいようになさって。と、おれの拳に手を添えてくれた。サンキュー!お前もいいオンナだぜ!膝に穴の空いた黒のロンドンスリムにゴツめのワークブーツ、素肌に革ジャン。耳には安全ピン、ゾンビと見まごうドス黒いシャドウを入れ、髪はデップ…と言いたかったが買いに行く時間が無かったので、厨房からくすねたラーメン用の背脂をコッテリ塗りつけ、ビンビンに尖らせる。陛下、お時間です。通路側でうやうやしく待つ侍従長ごとドアを蹴り飛ばし、大音量で流れ始めたダムドのNew Roseに乗って、ぴょんぴょん飛び跳ねながら国民の前に飛び出したおれは、背脂の匂いにつられてワッと集まってきたトンビやカラスに頭を突つかれ、流血して泣き叫びながら逃げ回った。血に染まった視界の隅に、般若の面を着けトゲトゲの黒いジャンプスーツに巨大ロンドンブーツを履いたMICHIKOが、熱狂する大観衆めがけて高さ数十メートルの舞台からダイブする姿が、かすかに見えた。

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智恵子抄

智恵子は東京には空がないと言うが、空だけじゃねえんだよ。たこ焼き器も、東京の家庭にはないんだぜ。まじすか。大きな声を出して振り向いた智恵子は、心のきれいなキチガイのふりをするのも忘れて、苛立たしげに肩をすくめた。じゃあ、東京の人は日曜に何するんすか。こいつだ。光太郎がゴトリと目の前に置いた拳銃に、智恵子の表情が固まる。東京の家庭じゃな、日曜にはロシアンルーレットで一家団欒を楽しむんだよ。光太郎はくわえタバコのまま拳銃を手に取ると、人差し指で弾倉を回した。まずはおれからだ、よく見とけ智恵子。笑顔で自らのこめかみに銃口を当て、智恵子がなにか言う暇もなく、躊躇なく引き金を引く。カチリと弾倉の回る音。簡単だろ、智恵子。やってみろ。手渡された拳銃の冷たい重みが、智恵子にポエムへの逃避を許さない。病室の壁時計が時を刻む音が、やけに大きく響いた。

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バンドやめようぜ

ディスクユニオンの掲示板に貼ったメン募「当方ボーカル、全パート募集。完全プロ志向。」のビラをみて電話してきたのが全員ビートルズのメンバーとはビックリだが、才能が保証されたメンバーが集って、これほど心強いことはない。最初のミーティングでは他の四人がおれそっちのけで英語で盛り上がり、スタジオ入りする頃には、こちらを指差してクスクス笑いながら耳打ちするようになっていた。最初のセッションから一発で完璧に息の合った演奏に、おれの入る余地はなく、ミーティングのメシ代とスタジオ代を払わされた挙句、犬のようにスタジオから締め出された。おれの考えたバンド名「うしろからチンポ刺され組」まで勝手に使われ、あれよあれよとビッグネームにのし上がっていくのを、おれは一介の音楽ファンとして、ただ眺めているしか無かった。メシ代とスタジオ代は、彼らが解散するまで払わされ続けた。

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