渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ブチノメセ!

お味噌を分けてください…。数少ない親の形見の古ぼけたおたまを手に、隣家を訪れた渡辺電機(株)さん。襟がびろびろになって黄ばんだイギー・ポップTシャツを着用、こめかみに膏薬を張り、ことさらに貧しさをアピール、憐れみを誘ってあわよくばおかずの一品もせしめようとの魂胆であったが、呼び鈴に応じて出てきたのは、まさかのイギー・ポップ本人であった。上半身裸。鳴り響く爆音。スポットライトにスモーク、雷鳴の如き大歓声。有無を言わさず引っ張り込まれ、肩を組んでサーチ&デストロイをデュエットさせられ、気付いたらおたまに山盛りの合わせ味噌を手に、家の前に立ち尽くしていた。

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湾岸ミッドナイト

何年ぶりかで朝まで徹夜で原稿を描くというのをやってみたが、午前2時くらいから百鬼夜行のおばけ大行進が家の前を通るので、おれもつい口笛を鳴らして紙吹雪を投げたり、朝日新聞社の旗を振って声援を送ったり、仕事そっちのけではしゃいでしまった。おれが寝てる間、こんなんやってたんやな。やがて東の空が明るくなると、ニワトリの泣き声を合図に、おばけたちは一斉に行進を止め、黄泉の国へ帰ってしまった。おれも我に返って半泣きで原稿作業に戻ったが、原稿ファイルはどれもすべて、今のおれのMacでは開けない、pict形式で保存し直されていた。おばけたちのささやかな悪戯におれは思わずクスリとしてしまい、原稿も落ちて仕事はすべて失った。

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ブレードランナー

いわゆる壁ドンというやつか、デッカードがおれを壁際に追い詰めて顔を近づけ、言った。キスしてと言え。でけえ鼻だな。しかも毛穴がボツボツで、こいつ近くで見るとキッショいな。聞こえないのか、キスしてと言え。言わねえよシミュラクラ野郎、どけよ。無言で強引に唇をかぶせてくる処をクルリと体を入れ替え、おれはデッカードを後ろ手にねじり上げた。いててて何しやがる!離しやがれコンチクショウ!口汚く罵るデッカードを離してやった。憶えてろ!腕をさすり、中指を立てながらあたふたと逃げ出して行くデッカードと子分たち。これが本当にあの、レプリカント狩りで勇名を馳せた男なのか…。 

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内臓が汗かきよるわー

河口くん、梶原くんと3人でブルハ再結成の打合せ。真島・甲本くんらの穴をおれが一人で埋めるプレッシャーは相当キツイものがあるが、参加しなかった奴らを見返してやろうと、大いに語り合った。すでに復活アルバムの発売も夏に決定、各夏フェスへの出演もいくつか決まっている。トリオ漫談という新しいスタイルが従来のファンに受け入れられるのかは不安だが、これが21世紀の新生ブルハだと誰もが納得する姿をお見せするつもりだ。それにしても、いつになったらこの白い部屋から出してくれるのか…。

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コミュニケイション・ブレイクダウン

レッド・ツェッペリンの前座で登場した渡辺電機(株)さんのトイレ漫談に、マジソン・スクエア・ガーデンの聴衆は爆笑に次ぐ爆笑だった。得意の下痢便サーフィンのネタを最後にステージを降りた後もアンコールが鳴り止まず、それが主役のレッド・ツェッペリンが登場した時に嵐のようなブーイングに変わると、場内には不穏な空気が流れ始めた。オープニングの「ロックンロール」はどうにか完奏したものの、2曲めの「シック・アゲイン」の歌い出しの所でペットボトルが投げ込まれると、ロバート・プラントはマイクを投げ捨て、客席に向けて何か捨て台詞を残し、舞台の袖へ歩み去った。ロック史上に残る最悪の暴動の幕開けだったが、すでに会場を後にしていた渡辺電機(株)さんは知る由もなく、近所の松屋でカレギュウがぬるいとクレームをつけ、店員と押し問答になっていた。

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死霊のはらわた

カニはミソがンマいんだ!そう言ってメリメリと甲羅をはがし、中のミソを指でこそげ取って美味しそうにしゃぶる渡辺電機(株)さんだったが、カニに見えていたのは他ならぬ石ノ森章太郎先生だったのだ。かつての雇用主の腹を裂き内蔵をしゃぶり尽くした罪で、地獄に堕とされた渡辺電機(株)さんは、今では新漫画党の宴会でカニの殻をむいて巨匠たちにミを食べさせる係を仰せつかり、多忙な日々を送っているという。

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白と黒と赤

白ヤギさんから届いたお便りの便箋にはシアン化カリウムが塗布されていたが、黒ヤギさんは知る由もなくムシャムシャ食ってしまった。やがて胸が苦しくなってきたので、ああこれは友達の手紙を食ってしまった罪悪感のせいなのだなあ、おれはひどいことをしちまったなと、泣いて悶え苦しみながら、死んだ。驚いたのは白ヤギさんである。いくらヤギとはいえ友達の手紙まで食うとは夢にも思わず、ジャーン青酸カリでした!というどっきりのはずが、友達の命を奪ってしまったのである。泣いて泣いて泣き続けて、黒ヤギさん殺害の捜査で犬のおまわりさんが訪ねてきたときにはもう、白ヤギさんは姿見に紅いルージュで「ごめんなさい」とのメッセージを遺し、冷たくなっていた。

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