電機さん、今日こそビートルズの再結成に力を貸してもらうよ。そう言って目の前に立つポール・マッカートニーはなぜか和服に身を包み、頭にはチョンマゲが載っている。鼻を突く鬢付け油とお風呂の香り。渡辺電機(株)さんは苦笑いして、いいから横綱、今日はエープリルフールじゃねえし。と制するも、その自称ポールは、ヨコヅナ？と不思議そうな顔をして、ワンツッスリッフォッなどとカウントして、ミュージシャンのフリを続けている。じゃあ、他の面子はどうすんの。呆れて尋ねると、もういるよジョンとジョージ、もちろんリンゴも。と、屈託のない笑顔。外人風の付け鼻が剥がれかけ、カラコンもずれて元の黒い目玉がバレバレである。そして、それが馴染みの横綱では無いことに気がついた。あ、あんたは勝海舟！？そうよ、海の向こうにはよ、おらんだやふらんす、えげれすがあるんだ。いつまでそんな小さい島国で片意地張ってるつもりだい電機さん！ワケがわからないまま丸め込まれ、知らねえ外人たちとバンドを組まされて、忘年会の余興や遊園地、ヤクザの新年会などで演奏させられる日々です。ギャラはどうなってるのやら、何度訊いても体よく勝先生に言いくるめられてしまって…。
続きを読む小説渡辺學校
権力にモノを言わせて利権を貪り私腹を肥やし、庶民を泣かせて女を抱く。そんなステレオタイプなイメージを鵜呑みにして衆院議員選挙に打って出た渡辺電機(株)さんは、公開討論の場で何のポリシーも理想もないことを露呈して袋叩きにあい、ついには女が抱きたいよう金が欲しいんだようと泣きじゃくり、他陣営の顰蹙を買った。だが、嘘偽りのない魂の本音は、上っ面の理想を語る候補者たちに飽き飽きしていた有権者の胸を打った。問答無用のトップ当選を果たし、保守系の若手としてメキメキ頭角を現した渡辺電機(株)さんは、どんなに出世しても夢から遠のくばかりで、女を抱くどころかオナニーの時間すら取れない多忙な日々の中で次第に心を病み、首相の座に就く頃には、寄り目で笑いながらよだれを垂らし、もう殆ど言語を理解しなかったという。
続きを読む人類皆殺し
河童に育てられて50年。平均寿命250歳と言われる河童に比べて、人間はあまりにも短命だった。美しく若々しい河童仲間を差し置いて、みるみる年老いておっさんになって行く己に疑問を抱いた渡辺電機(株)さんは、育ての親の河童を問い詰めた。お父さんお母さん、私はいったい何者なのですか。その瞬間、視界がモノクロ２諧調に切り替わり、白黒の粗いドットがカクカクと動きながらゆっくりと崩れ落ちて行き、世界が消滅して行った。その背景に現れた灰色の「無」の空間と思われたそれは、JR高円寺駅高架下のねぐらで仰向けになって見上げる、薄汚いコンクリートの天井だった。また、河童の夢か…。これは何かの予兆なのか、はたまた河童の国からのメッセージか…。眠り直そうと寝返りを打つ渡辺電機(株)さんをよそに、外の世界では、人類を皆殺しにして世界を制圧した河童の軍隊が、生き残りの人間を捕らえて処刑しようと、血眼で探し回っていた。
続きを読む寄席藝人伝
ネットの情報を中途半端にうのみにした渡辺電機(株)さんは、おれもひとつフェイクニュースのサイトを立ち上げてひともうけしてやろうと考え、「【悲報】桂歌丸が二代目林家こぶ平を襲名wwwwww」と言う記事をアップしたところ、数分後にはヤフーのトップニュースに紹介され、SNSでも爆発的に拡散、ちょっとコンビニにおやつを買いに行って帰ってきた渡辺電機(株)さんは、目にも留まらぬ速度で回転し続ける古めかしいアクセスカウンターを、呆気にとられて見つめていた。しかも記事ページに適当に貼り付けた広告からアダルトグッズや導尿カテーテル、リゼルジン酸、二宮金次郎像、タイ米１年分などが飛ぶように売れ、その日のアフィリエイト収入だけで数百万円を記録した。金じゃ！金じゃ！ハワイじゃビフテキじゃ！思わず小躍りしたその時。「渡辺電機(株)さん。」突然呼ばれて振り向くと、TV画面いっぱいに大写しになった歌丸師匠が、哀しげな目をして、病床から何か語りかけようとしているところだった。
続きを読むモンキーマジック
ゴリラと脳を交換し、見た目はそのままに人間の叡智を失ってしまった渡辺電機(株)さんは、もう二度とマンガを描くことができなくなる、誰しもそう思った。だが、食欲と性欲のみに衝き動かされ、そのための収入源と割り切って描くマンガはストレートな快楽主義と暴力性に満ちた、まさに男のユートピアそのものの内容で、それ迄のキャリアが消し飛ぶ大ヒットを記録した。女を抱き、めしを食い、大鼾をかいて寝る。それ以外の時間は野獣の猪突性でひたすらマンガを描き続ける渡辺電機(株)さんを、陰気なゴリラが、物陰から付け狙っていた。だが、人間の心を持つゴリラはどうしても、かつての自分の外見をもつ相手を、殺すことはできなかった。悲しげに吠えながら、懐かしの神保町をあてもなく徘徊するゴリラを、人々は街の守り神として愛したという。（ビリー・ジョー・アームストロング／談）
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