渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

Beat the Clock

親にねだって14歳の誕生日に買ってもらった通信販売のフォークギター、届いて大喜びで梱包を解いたら、ギターの形にくり抜かれたダンボールに、油性マジックで「ギター」と殴り書きされていた。白鵬の野郎、こんな70年代の過去にまで…。おいてめえ、自分が生まれてない時代までやんのは、いんちきじゃねえかよ?何処かに隠れて、大喜びしているであろう横綱に向け、叫んだ。返事の代わりに、頭上の鳩時計が午後3時を知らせた。鳩の代わりに大銀杏を結った横綱の顔が、寄り目のひょっとこ顔でポッポーと3回鳴き、パタンと扉を閉じて時計の中に消えた。

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アイドル地獄変

かつて「花の中三トリオ」として頑張った仲間、山口百恵、森昌子と3人だけの飲み。それぞれ進んだ道は違えど、今も年に1度だけこうして再会して、思い出話や近況に花を咲かせるのだ。百恵さんはメディアの前から姿を消した原因とも言える人面疽がいよいよ悪化して、もう全く別人のような外見。禿頭に魔女のようなワシ鼻、汚い乱ぐい歯の並ぶ、大きな口。以前なら考えられなかったような口汚い悪罵を撒き散らし、時折り服の中からタスケテと小さな声が聞こえてくる。昌子ちゃんも、もう身体の大部分を機械に乗っ取られて、生身の部分はほぼ残っていない。何を言われてもランプを明滅させながらカチカチと電子音を立てるばかり。それでも、やっぱり旧友との再会は、嬉しいものだ。「おいおめえ、何モンだ。淳子をどうした?」トゲのある声に振り向くと、百恵さんが疑心暗鬼に満ちた眼差しで、おれを睨みつけている。良い所に気付いたね、実はな… 

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団のめんもく丸つぶれ…

ウィリアム・バロウズ、好きっすね。映画なら断然ウディ・アレン。歌手はレナード・コーエン一択す。得意げにコジャレた趣味を開陳する横綱白鵬に、セルジュ・ゲーンスブールはどうよ、とカマをかけると、あっさり食いついついた。ああ、ゲーンスブールね。好き好き!アルバム何枚か持ってるし、映画もかっこいいっす。ほら、すぐ尻尾を出したよ。おれの言葉に、一瞬固まる横綱。いねえわ、そんな奴。ゲーンズブールってのは人の名前じゃなくてスパゲッティの名前だよ。知ったかすんじゃねっつのバーカ!バカ!勝ち誇るおれの前で顔面蒼白のまま唇を噛み締めていた横綱が、逆上して叫ぶ。いるもん!…だからいねえって。いるもん!作ればいるもん!じゃあ作ってみろよ!嘲笑したおれだが、まもなく天下の大横綱の力を、思い知らされることになるのだった。

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その男凶暴につき

昨日のブログにつきまして日本相撲協会様より厳重な抗議をいただき、謹んでお詫び申し上げるとともに、昨夜未明をもって渡辺電機(株)本人の死刑を執行いたしました。皆様に於かれましては、以後渡辺電機(株)儀に対し一切のお構いなき様、お願い申し上げます。早朝5時半に全国の暴力団事務所に向け一斉に送信されたFAXにより、渡辺電機(株)さんの極道として生きる道は事実上絶たれた。以後、足を洗い市井の人となった彼は、売れない漫画を細々と描いて生計を立てた。それが、平成の頃の話である。今、どうしているのか。不安を胸に記者が訪れた、北海道登別市郊外の薄汚れたスナック。開けようとしたドアをぶち破り、けたたましいエンジン音を轟かせ飛び出したハーレーダビッドソン。モヒカンヘアで素肌に袖なし革ジャン、レザーパンツ、つま先にノコギリザメの頭部が施されたカウボーイブーツの初老の男。御意見無用の幟を立て、傲然とハンドル越しに見下ろすその両眼は、白く濁っていた。あの、渡辺電機(株)さんですよね…?男は答えず、拳を振り上げU!S!A!U!S!A!とコールしながらエンジンを吹かし、人気のない登別市街の朝もやの中を、奇声を上げて走り去っていった。

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平成最強力士伝

インタビューを切り上げようとタイミングを伺うアナウンサーをよそに、興奮冷めやらぬ照ノ富士のおしゃべりは、なおも止まらなかった。「ほら、以前は漫画界の景気も良くて業界ピラミッドの頂上も高かったからさ、裾野の末端作家もソコソコおこぼれに預かれたけど。それが今は、頂上も低いから裾野の方は食えなくなっちゃって、じゃあどうしましょう。じゃあ、自立して小さな点としてやって行きましょう、って話でね。よくある電書の自費出版で稼ぐ!みたいな話は、実はそんなに景気の良い話ではないのよ」ますます早口にまくし立てる大関の顔は、すでに力士のそれではなかった。インタビュールームになだれ込んできた親方衆に取り押さえられ連れて行かれた照ノ富士が、いつ頃から変装した渡辺電機(株)さんとすり替わっていたのか、それは誰にもわからない。少なくとも三役に上がる頃には、本人は既に故郷に帰り、佐川の配達の仕事に就いていたという。

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モーレツ大作戦

チクロ!光化学スモッグ!アメリカシロヒトリ!高度成長華やかなりし昭和を彩った災厄の数々がいま、リヴァイヴァル!!ケツからばい煙をモクモクと吐き出し、クソ甘ったるい原色のアメをバラまき、けむしの唄を歌いながら街へやってきた渡辺電機(株)さんは、好物の紅茶キノコとアグネス・ラムの写真でまんまとおびき寄せられ、欽ドン!収録後の反省会の真っ只中に放り込まれた。萩本の苛烈な舌鋒は渡辺電機(株)さんに集中し、松居直美や見栄晴が帰宅した後も説教は延々と続き、ようやく解放された頃には時代が替わり、世は平成となっていたのである。

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おれは誰だ

おれの服を着た知らないやつが、実家で親と一緒にモリモリめしを食っていたので、誰だテメーと怒鳴り込んだところ、普通に親が警察を呼び、おれはパトカーに押し込まれて連行された。ねえおまわりさん、あいつは偽者なんですよ。運転席の警官に説明するも、反応がない。無言でハンドルを握り正面を向いた表情は、闇に紛れ読み取ることはできない。おいお前、警察じゃねえな。おれをどうする気だ。お迎えに上がりました、皇子。いつしか正体を現した人間大のナメクジが、うやうやしく言った。皇帝は余命幾ばくもございません。ひと目、お会いになって下さい。そして、皇位継承の儀式を行わねばなりません。いや人違いじゃないすか、大体おれナメクジじゃねえし。ねえ。ちょっと!おろせよ!おろしてくれ!

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