渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

未来狂人ウラシマン

子供の頃から育て慈しんできたカメが次第に巨大化、ある日の午後、空中にフワリと浮かんで「電機さん、今まで育ててくれたお礼に、竜宮城へご案内しましょう」と言う。声が広川太一郎なのはちょっと気になったが、立派に育ってくれた嬉しさに、やれうれしやと背中にまたがった瞬間、ギュンと耳鳴りがして光の渦に包まれ、視界が万華鏡のように高速で流れたと思ったのもつかの間、我に返ると全裸で、辻元清美衆院議員の執務室のデスクにまたがっていた。一杯食わされたのだ。その後のことは推して知るべし、怒られたなんてもんじゃなかったっス…。

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ラヴ・ミー・ドゥ

ビートルズの有名なデビュー前の演奏「デッカ・オーディション」音源の、3曲めのカール・パーキンスのカバー"This is your chimpo, baby"のバックで、かすかにおれの声が聞こえているのにお気づきだろうか。当時大久保のラーメン屋で出前持ちのバイトをしていて、偶々ラーメン4人前を届けたスタジオで、まさにビートルズのオーディションが行われていたというわけだ。あの時のでぶの4人組中年男が、まさかビートルズだとはねえ…。え、イギリス?何言ってんのあんた。警察呼ぶよ!

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神保町古書街彷徨記

黄泉坂書店古書部の伊頭さんから電話。お探しの本が入荷いたしましたとのことだが、おれが古書収集に血道を上げていたのは、もう30年近く前の話だ。伊頭さんがまだ健在だとしたら、もう90を過ぎているはず。お久しぶりです、ところで何の本でしたっけ?聞き返しても、伊藤さんは何だかくぐもった声で同じ言葉を繰り返すばかりで、だんだん混線したように声は聞き取りにくくなり、やがてノイズの奥に溶け込んで消えてしまった。とにかく行ってみれば分かるかと、省線とバスを乗り継いで神田神保町を訪れた。原爆で見渡す限りの焼け野原になった神保町の、地平線にポツンと黄泉坂書店の店舗ビルだけが、綺麗なままで残っているのが見えた。二階の窓から手を振っているのは、あれは30年前のままの若々しい姿の、伊頭さんではないか。おれは夢中で駆け寄ったが、いくら走っても黄泉坂書店は地平線の果にあり、一向に近づく気配がなかった。

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不死の門は開かれた

輪廻転生などというまやかしを一切信じないおれだったが、死んだら驚いた。漫画家の渡辺電機(株)さんになっていた。だから、昨日までの渡辺電機(株)さんとおれは、別の人なんで、ちょっと責任は取りかねるんですよ。そう言って肩をすくめてみせた渡辺電機(株)さんの言い訳が通用するわけもなく、激怒したコンビニ店主に引き立てられ、前日万引きしたモンスターエナジーとまるごとバナナのために、渡辺電機(株)さんは法の裁きを受けて死んだ。もちろん、輪廻転生などは無かった。

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殺しのシーズン

鬼は外ー!脳天気に叫んで窓から外に色とりどりのゼリービーンズをブチまけると、外にはオニこと鬼塚勝也が待ち構えていて、おれの投げたビーンズを一つ残らずパンチで室内に弾き返した。おれの顔面に垂直に刺さったそれらは鮮やかで、小さな花壇のようになった顔面から血を噴きながら、おれは棒のように仰向けに倒れて死んだ。深刻なパンチドランカーの後遺症で、自分が何をしているのかも理解していない鬼塚は、なおも庭先でシャドウボクシングをしながら、自分にしか見えない何かと戦っているようだった。

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ギターに賭けた青春

世界三大ギタリストといえば、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、そしておれだが、身の程知らずにもおれの代わりに入りたいと称する外人がやってきたので、返り討ちにしてやんよと、ギターバトルに応じることになった。場所はメタルの聖地、日清パワーステーション。国内外の著名なギタリスト数十人が客席に混じって超満員のオーディエンスを前に、MC伊藤政則の紹介で舞台に上がった、ジミーページとかいうレスポールを抱えた不細工な外人と、ギターの音を口で言うおれとの、壮絶なギターバトルの幕が開けた。

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アルカトラズ

額がM字型に禿げ上がった鼻の大きな赤ら顔の中年男性500人を集めてビフテキ、うな丼、にんにくラーメン、ユンケルを振る舞い、全裸になってもらって壁も天井も真っ赤な部屋の大スクリーンでアダルトビデオのハイライトシーンだけ3時間に渡って鑑賞(両手を拘束して自慰不可能な状態にて)、全員発狂寸前の緊張状態の中に、セーラー服を着せて放り込まれる刑を申し渡されたおれの、刑の執行を待つ拘置所での暮らしは、もう10年を超えているはずだが、今日もオートメーションで届けられる三度の食事以外、なにひとつ物音が聞こえない。以前はグラウンドの体操の声や看守の足音、刑場に引き立てられる受刑者の泣き声、空を飛ぶ飛行機のジェット音などが聞こえたものだが。この静かな世界、おれ以外に誰か生きているのだろうか…。

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