子供の頃から育て慈しんできたカメが次第に巨大化、ある日の午後、空中にフワリと浮かんで「電機さん、今まで育ててくれたお礼に、竜宮城へご案内しましょう」と言う。声が広川太一郎なのはちょっと気になったが、立派に育ってくれた嬉しさに、やれうれしやと背中にまたがった瞬間、ギュンと耳鳴りがして光の渦に包まれ、視界が万華鏡のように高速で流れたと思ったのもつかの間、我に返ると全裸で、辻元清美衆院議員の執務室のデスクにまたがっていた。一杯食わされたのだ。その後のことは推して知るべし、怒られたなんてもんじゃなかったっス…。
続きを読む神保町古書街彷徨記
黄泉坂書店古書部の伊頭さんから電話。お探しの本が入荷いたしましたとのことだが、おれが古書収集に血道を上げていたのは、もう30年近く前の話だ。伊頭さんがまだ健在だとしたら、もう90を過ぎているはず。お久しぶりです、ところで何の本でしたっけ?聞き返しても、伊藤さんは何だかくぐもった声で同じ言葉を繰り返すばかりで、だんだん混線したように声は聞き取りにくくなり、やがてノイズの奥に溶け込んで消えてしまった。とにかく行ってみれば分かるかと、省線とバスを乗り継いで神田神保町を訪れた。原爆で見渡す限りの焼け野原になった神保町の、地平線にポツンと黄泉坂書店の店舗ビルだけが、綺麗なままで残っているのが見えた。二階の窓から手を振っているのは、あれは30年前のままの若々しい姿の、伊頭さんではないか。おれは夢中で駆け寄ったが、いくら走っても黄泉坂書店は地平線の果にあり、一向に近づく気配がなかった。
続きを読むアルカトラズ
額がM字型に禿げ上がった鼻の大きな赤ら顔の中年男性500人を集めてビフテキ、うな丼、にんにくラーメン、ユンケルを振る舞い、全裸になってもらって壁も天井も真っ赤な部屋の大スクリーンでアダルトビデオのハイライトシーンだけ3時間に渡って鑑賞(両手を拘束して自慰不可能な状態にて)、全員発狂寸前の緊張状態の中に、セーラー服を着せて放り込まれる刑を申し渡されたおれの、刑の執行を待つ拘置所での暮らしは、もう10年を超えているはずだが、今日もオートメーションで届けられる三度の食事以外、なにひとつ物音が聞こえない。以前はグラウンドの体操の声や看守の足音、刑場に引き立てられる受刑者の泣き声、空を飛ぶ飛行機のジェット音などが聞こえたものだが。この静かな世界、おれ以外に誰か生きているのだろうか…。
続きを読む