渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

不死の門は開かれた

輪廻転生などというまやかしを一切信じないおれだったが、死んだら驚いた。漫画家の渡辺電機(株)さんになっていた。だから、昨日までの渡辺電機(株)さんとおれは、別の人なんで、ちょっと責任は取りかねるんですよ。そう言って肩をすくめてみせた渡辺電機(株)さんの言い訳が通用するわけもなく、激怒したコンビニ店主に引き立てられ、前日万引きしたモンスターエナジーとまるごとバナナのために、渡辺電機(株)さんは法の裁きを受けて死んだ。もちろん、輪廻転生などは無かった。

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殺しのシーズン

鬼は外ー!脳天気に叫んで窓から外に色とりどりのゼリービーンズをブチまけると、外にはオニこと鬼塚勝也が待ち構えていて、おれの投げたビーンズを一つ残らずパンチで室内に弾き返した。おれの顔面に垂直に刺さったそれらは鮮やかで、小さな花壇のようになった顔面から血を噴きながら、おれは棒のように仰向けに倒れて死んだ。深刻なパンチドランカーの後遺症で、自分が何をしているのかも理解していない鬼塚は、なおも庭先でシャドウボクシングをしながら、自分にしか見えない何かと戦っているようだった。

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ギターに賭けた青春

世界三大ギタリストといえば、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、そしておれだが、身の程知らずにもおれの代わりに入りたいと称する外人がやってきたので、返り討ちにしてやんよと、ギターバトルに応じることになった。場所はメタルの聖地、日清パワーステーション。国内外の著名なギタリスト数十人が客席に混じって超満員のオーディエンスを前に、MC伊藤政則の紹介で舞台に上がった、ジミーページとかいうレスポールを抱えた不細工な外人と、ギターの音を口で言うおれとの、壮絶なギターバトルの幕が開けた。

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アルカトラズ

額がM字型に禿げ上がった鼻の大きな赤ら顔の中年男性500人を集めてビフテキ、うな丼、にんにくラーメン、ユンケルを振る舞い、全裸になってもらって壁も天井も真っ赤な部屋の大スクリーンでアダルトビデオのハイライトシーンだけ3時間に渡って鑑賞(両手を拘束して自慰不可能な状態にて)、全員発狂寸前の緊張状態の中に、セーラー服を着せて放り込まれる刑を申し渡されたおれの、刑の執行を待つ拘置所での暮らしは、もう10年を超えているはずだが、今日もオートメーションで届けられる三度の食事以外、なにひとつ物音が聞こえない。以前はグラウンドの体操の声や看守の足音、刑場に引き立てられる受刑者の泣き声、空を飛ぶ飛行機のジェット音などが聞こえたものだが。この静かな世界、おれ以外に誰か生きているのだろうか…。

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乙女の儚夢

サソリの活きの良いのが入ってたので、今夜のおかずは決まった。菜種油でカラッと揚げて、粗塩を振ってバリバリいただこう。あとはなめくじの酢の物に、チョウセンアサガオのおひたし、そして軍隊アリの炊き込みご飯。男子禁制の乙女の花園、AKB48女子寮のまかない係として、今日も存分に腕を振るうぞ!ウワッ誰だよこのタッパーのふた外したの!なめくじが逃げ出してるじゃん!これボルネオ産の高っけーヤツなんだよ!こうして、逃げ出した肉食のボルネオオオナメクジが、就寝中のメンバー全員を骨も残さず食い尽くし、AKB48は壊滅。おれは絞首刑になった。

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ああ浦見灘

浦見魔太郎のその後については意外と知られていないが、中学卒業を控えて父親が失業、その時点で数百万の借金をして愛人に貢いていたことも発覚し、一家は離散していた。とにかく飯がたらふく食いたい一心で、相撲部屋に入門した魔太郎は、力士になってもやっぱりイジメられていた。稽古で叩きつけられ罵られ、部屋の日常でいびられた恨みを相撲にこめ、魔太郎は強くなって行った。最初の内こそうらみ念法に頼っていた彼も、猛稽古に明け暮れる日々、次第に本当の力をつけていった。学校での凄惨ないじめに比べれば、相撲部屋のしごきなど、彼には何でもなかった。場所ごとに番付を上げ、風貌も力士らしくなっていく中で、彼は次第に人間の記憶を失い、身も心も力士そのものになって行った。新入幕で10勝5敗、敢闘賞の受賞を決めた魔太郎の支度部屋に、懐かしい人が訪ねてきた。「魔太郎、久シブリダナ!オメデトウ」昔と変わらぬ小さい姿の切人が、目を潤ませて駆け寄った。「コレハ三賞ノオ祝イダ!サア飲ンデクレ!キキッ」切人が差し出した青酸カリ入りコーラのペットボトルを無言でひったくり、一気に飲み干した魔太郎は、軽くげっぷをしてニヤリと微笑み、何年ぶりかで「コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ〜…」と呟き、切人に向けて親指を立たせて見せると、笑顔のまま仰向けに倒れ、絶命した。黙秘を貫いたまま刑務所に送られた切人は、刑期の20年を終え出所した後もこの件について一切言及することなく、生涯を終えた。終生、魔太郎の墓参りは欠かさなかったという。

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六つ子なんかに負けないぞ!の巻

また今日も晩メシどきを狙ってチビ太が遊びに来たので、生き餌屋で買ってきたゴカイやミミズがうじゃうじゃするバケツに、両足をつかんで逆さにして頭から突っ込んでやったら、中からウメーウメーてやんでちきしょベーロイと田中真弓の声が聞こえて、ケツからブウーッと強烈な屁を放った。強酸性の悪臭のする屁をモロに浴びてしまい、おれは顔面と気管が焼けただれる激痛にのたうちまわり、5人の弟たちも嘔吐や痙攣をしながら、バタバタと倒れて、昆虫のように仰向けで手足を曲げたまま、死んでしまった。ごちそうさまー!元気な声とともにズルッズルッと重いものを引きずるような音がして、生き物の気配は去った。視力も声も失ったおれは、この事件のことを誰に話すこともなく、めくらのいざりとして三条大橋の下で、残りの短い生涯を送った。

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