渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

さまさか星人

ケロッグの新製品フィンガーチップスというのを買ってきたが、ボウルにあけてみたら、乾燥させた人間の足の指だった。ミルクと、おれのお好みではちみつを少し垂らして食ったら、サクサクして美味かった。朝はこいつで決まりだね!しかしこんだけの足の指、どこで調達してんだろう…と思ってテレビをつけたら相撲中継をやっていて、どの力士も足の指が一本も残っていなかった。

続きを読む

京都の大地はでっかいどう

鴨川の三条大橋下のホームレス軍団と、我々四条大橋下のチームとの抗争は長年に渡り、上流から大小便を流されたりの嫌がらせに対抗して、こちらからも遡上する気満々のシャケ500匹を放流して大パニックに陥れるなど、犬猿の仲はつとに有名で、四条大橋から見下ろせるおれたちの小競り合いの様子は、観光客に人気の風物詩として、京都市の観光局も黙認せざるを得ないものであった。それが、両方の橋を取り壊して鴨川の上に覆いかぶさる河原町レジャーランド建設の計画が持ち上がった時、我々は初めて一致団結、徹底抗戦のレジスタス活動に身を投じた。おれたちの鴨川は渡さんぞ!手に手に竹ヤリを持ち、解体工事の作業車の前に立ちはだかったおれたちだが、祇園の芸者衆が南座屋上からモチを撒き始めると、全員が歓声を上げて工事そっちのけで群がり、四条通に散らばったモチを奪い合った。その上を、中国人のツアー客を乗せた観光バスが何台も猛スピードで通り過ぎて行き、後には平らな肉塊と血のシミと、モチが残った。

続きを読む

バブルと寝た男たち

バブル絶頂期に地上げ界のプリンスとして億単位の金を自在に動かし、夜な夜なマハラジャやトゥーリアで万札をばらまいてVIPルームにイケイケギャルを侍らせ、高価なスポーツカーやクルーザー、自家用ヘリを乗り回し、有名人を伴って豪遊を繰り返していた渡辺電機(株)さんはある朝、生まれて初めて出来た口内炎を鏡で見て、バブルの時代と己の絶頂の終わりを知った。その日の内にすべての有価証券と不動産を現金に換え、オフィスも引き払った彼は、それきり消息を絶った。しばらくして、彼が地上げを仕掛けて商店街まるまる一つ消失したJR板橋駅前に、高さ150mを超す純金の巨大な観音像が建った。渡辺電機(株)さんの全財産を注ぎ込んで建立された像は、土台には人柱として彼自身がその身を埋めたと噂され、風の強い夜には彼の唱える般若心経が、夜風に乗ってどこからともなく聞こえてきたという。

続きを読む

白雲なびく駿河台

大学時代はガールハントにも行かずコンパにも出ず、ひたすら勉学と新聞配達に明け暮れ、学友たちの女色の話題にも加わらず、哲学に親しみ読書を愛し、刻苦勉励の清廉潔白な学生生活を送っていたが、内面では若さ故の抑え難いマグマの如き性衝動を持て余し、三年生の初夏、小川武敏教授の戦後日本文学史概要の講義中、無意識の内に大学ノートに几帳面な字でびっしりと「おまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこ」と書き連ねていたのを見咎められ、学内きっての好色漢、稀代のド助平として除籍処分となり、世間のあらゆる辛酸をなめ三十余年を経たおれが、校友会のカンパ3万円とか払うわけねえだろうあほんだら。

続きを読む

アーマライトM16

福岡県飯塚市のひまわり幼稚園に、園児に変装して潜入したデューク東郷だったが、ターゲットの渡辺電機(株)さんはひと目でこれを見抜いた。間違いねえ!奴はプロだ!あの眼はプロの眼だッ!!5歳にしてなんたる慧眼。うめ組担任の小岩井先生に、東郷が殺し屋である旨を申し述べた渡辺電機(株)さんだったが、小岩井先生はその場に東郷を呼び、二人の手を強引に繋がせて、言った。おともだちでしょう。仲良くしなさい!先生、だってこいつは。何か言いたげな二人を強引に園内のブランコに並んで座らせた先生は、思い切り二人の背中を押した。やがて幼い嬌声を上げながら、二人のわだかまりは解きほぐされて行った。それから47年。東郷は今も年をとることなく殺し屋として世界を飛び回り、渡辺電機(株)さんの行方はわからない。すでに廃墟となった幼稚園の朽ち果てたブランコからは、深夜になるといまも、無邪気な中年男の野太い嬌声が聞こえるという。

続きを読む

キャンディ・キャンディ・キャンディ

テキサスいちの荒くれ者、保安官にも手のつけられない鼻つまみ者の渡辺電機(株)さん。近所の牧場の馬を捕まえて丸焼きにして食ったり、国立公園の山の主といわれる巨大バッファローを素手で倒し、角を両脇に抱え意気揚々と引き上げて来たり、川で素潜りをしてはアリゲーターをいじめるものだからワニが一匹残らず逃げてしまったり、強欲で粗暴な大男だった。それが34歳の夏、ガソリンを残らず飲んでやるつもりで忍び込んだ深夜のガソリンスタンドに捨て置かれた、一冊の本を手に取った時、運命が変わった。いがらしゆみこ「キャンディ・キャンディ」という日本のコミックに、彼は魅了された。ここに描かれているアメリカは、おれの知っているアメリカの暮らしとどうしてこんなにかけ離れているんだろう。憧れをつのらせた彼はまんがに倣い、髪を伸ばし、少女のような言葉遣いを心がけ、彼なりに一生懸命おしゃまで天真爛漫な乙女を演じた。日頃の凶暴さに気持ちの悪さも加わって、いよいよ村に居づらくなった彼は、隣の牧場の馬を二頭、両脇に抱えて勝手に街で売り払い、得た金で航空券を買って、あこがれの国・日本を目指した。身の丈2m、毛むくじゃらの青い目の女装男、渡辺電機(株)さんの漫画家修行は、いま始まったばかりだった。時は昭和60年、春のことである。

続きを読む

Nasty Beat

歌舞伎町のサントリー館で、1979年東京都知事選の泡沫候補同窓会。東郷健、赤尾敏、深作清次郎、安井けん、秋山祐徳太子らおなじみの顔ぶれが揃い、楽しい会になった。スペシャルゲストのキッチュが演じてみせる各々の政見放送のパロディに、一同抱腹絶倒であった。そう、おれの物真似が始まるまでは…。おいキッチュ、そりゃおれじゃねえ。思わず上げた怒声に座は静まり、怯えた顔で凍りつくキッチュ。えっあの、私はこれで正しかったかと…。消え入りそうな声で弁解する胸ぐらをつかみ、もう一回演ってみろと命じる。不承不承に変な象の帽子をかぶり直し、再び「尊師マーチ」を歌い出すキッチュを、この野郎と殴りつけようとしたその時。いや、これ電機さんよね。と、東郷健。そうじゃそうじゃ、こりゃあんたじゃろ、電機さん。赤尾敏もおれを指差し、愉快そうに笑い転げる。そうだったのか。気を取り直したキッチュの声も次第に高くなり、いつか一同の大合唱になっていく中、おれは半分に切られて美味しそうな香りを放つメロンを手に、隠し穴の奥に横たわっていた。デカ長、いました。怒声が入り乱れ、強烈な光が差し込み、捜査員たちが乱暴におれの体を引きずり出した。

続きを読む