渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ブレヘメン

口内炎をほっといたらドンドンでかくなって最終的におれ本体よりでかくなり、巨大な口内炎のはしっこにブラ下がって暮らしているうちに、同病相哀れむというヤツで仲間も次第に増え、今では地方選挙の結果を左右するレベルの一大勢力に発展、国を動かすぜ!と意気込んでいたら、なにしろ口内炎だからドンドンくっつきだして、今ではビワ湖ほどの巨大口内炎にビッシリと数十万人の人間がブラ下がって、美しいコーラスを聴かせるという。

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仮面の幸福

風呂あがりにちょっと軽い気持ちで肩に手をかけたら、ビクッと過敏に反応して飛びのき、「触んないでッ!!」と毛虫にでも触れたかのような刺々しい言葉を発した白鵬の頭に、おれはカッとなってテーブルの上にあった重い灰皿を振り下ろしてしまった。灰皿は頭に触れる前に横綱の発するオーラで粉々に砕け散り、おれは横綱ののど輪一発で吹っ飛び、稽古場の壁を人型にブチ破って、隅田川に落下した。おれの死体は隅田川のナマズに食われて骨も残らず、白鵬は何ごとかと降りてきた宮城野親方の前で、ただ泣きじゃくるばかりだったという。

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おれはショパンが好きだ。お前はどうだ?

ガゼボのカバー曲「雨音はショパンの調べ」のヒットで結構な収入を得たと思われがちだが、おれはただあてがわれた曲を歌っただけでギャラはとっぱらいの10万円、歌唱印税もカラオケ印税も一文も入らない。仕方がないのでギャグマンガで食いつないでどうにか日々の糧を得ているが、なんと何年ぶりかでテレ東大晦日の懐メロ特番にお呼びがかかった。どうせなら放送事故レベルの爪痕を残してやろうじゃないのと、顔面全体に般若心経のタトゥー、蛍光オレンジの茶筅髷、プレスリーモデルの星条旗柄のジャンプスーツに爬虫類仕様のカラコンと、かつての面影を1ミリも残さない異形で収録に臨んだ。お呼びが掛かって、鼻息荒く楽屋からスタジオ入りすると、ガランとしたスタジオの闇の中にポツンと一人、例の心が読めない笑顔を浮かべた陛下が、「どっきり大成功」の看板を持ち、お立ちになっていた。

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いじわる大作戦

大銀杏を結い、四股名の染め抜かれた浴衣をまとい、雪駄の音も軽やかに両国の町をそぞろ歩くおれは、誰がどう見ても横綱白鵬そのものだった。これでアイツの評判をメチャクチャにしてやるぜ!まずは手近な個人経営のパン屋に入り、陳列された焼きたての美味しそうな桃のデニッシュを、手当たり次第にムシャムシャと食ってやった。店番のおばあさんは驚きながらも目を細め、まあまあ横綱、たんとお食べなさい。これからも頑張ってねと、優しくぺたぺたとおれの背中を叩くものだから、思わずポロポロと涙を流してしまった。ごめんよおばちゃん、おれ本当は白鵬ちゃうねん。そうだろうな。やけに野太い婆さんの声は、まぎれもない横綱の声だった。

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あやかしの夜

実家の床の間に飾ってあったウミガメの甲羅を装着し、小川ゴムのカッパマスクをかぶり、足にはダイビング用のフィンを履き、全身にミドリ色でスプレーすれば、完璧なカッパのできあがりである。道行く人にキュウリをもらったり、子供になつかれてキュウキュウ鳴いてみせたりしながら、皇居の正門から大手を振って侵入に成功した。警備員も写メを撮ったりしながら笑っている。バカどもが。お命頂戴ッ!匕首を抜いて飛び込んだ陛下の居室には、高下駄を履いたカラス天狗が、部屋の中央に仁王立ちしておれを待ち受けていた。へ、陛下もこういうご趣味がッ?それからというもの、おれたちは河童と天狗の姿で、侍従や警備員に咎められることなく皇居の外へ出て、夜の闇にまぎれて様々な悪事を働いた。平成の世が終わるまで、その密かな遊びは続いた。

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雨に唄えば

渇水から一転して、台風がボコボコ発生するようになったのは、明らかにおれのせい!半狂乱で二階の物干し台に上り、ビリケン様を改造した雨乞い人形を叩き割り、物干し竿に大量のてるてる坊主をひとつずつブラ下げていった。合計100個のてるてる坊主ひとつ吊るす度に、雨空からブミョ、ブミョと変な音がして雨雲が後退して行き、ついには灼熱の太陽が容赦なく大地を照らして焦がし、おれを除く全ての生物は焼き殺され、天空に轟き渡るファンファーレとともにステージクリアして、この世界は終わった。

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源蔵じいの思い出

幼いころ、源蔵じいの腕に抱かれて、奇妙な節回しの子守唄や、恐ろしい昔話を聴かされた記憶は、なんとなく今でも残っているが、まさか今も健在で、コス板でレイヤーさんに粘着する常連として、忌み嫌われていたとは、知らなかった。おれの幼少期に80を越えていた源蔵じいが、今もこの世にいること自体が信じられなかったが、とにもかくにも放っておくわけにも行かず、目撃情報の多いコスホリの、会場のガーデンシティ品川の外まで長く伸びた一般列を、一人ひとり顔を見て、探していくことにした。一般客は全員、明らかに100歳を越えた老人ばかりだった。どういうことだ。中には明らかに死んでいて、顔半分が溶けかかった者や、完全に骸骨になった者もいる。ぼっちゃん、こっちに来なすったか。振り返ると、80年代アイオタ風のオタクファッションに身を包んだ源蔵じいが、生きていた頃には見せたこともない晴れやかな笑顔で、立っていた。生きていた頃?自分の言葉に我に返って思わず手を見ると、左手首の深い傷はすでに乾き切り、乾いた血のこびりついた指は、古い蝋燭のように青白く硬直していた。

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