渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

初めての持ち込みの思い出

昭和の終り頃の話。ナメられてはいけないと般若の面を着けて行った、初めての原稿持ち込み。御茶ノ水駅から駿河台の坂を下って、学生やバンドマンにウワッ鬼!などとよけられながら、駿河台下交差点に差し掛かった頃、前方からスタスタと早足で歩いてくる、アフロヘアで紅白のしましまシャツを着た男性。見間違えようもない楳図かずおその人であった。楳図氏は般若のおれをチラリと一瞥、表情も変えずにモノスゴい速さで、坂を上って行った。その途端、おれの着けていた般若の面は、乾いた音を立てて真っ二つに割れた。面を失って自信をなくしたおれは、出版社の前でモジモジ1時間ほども逡巡した挙句に約束の時間に遅れ、対応してくれた不機嫌な編集者に作品をろくに見もせずに叱責され、五分と経たず追い返された。それから30年、件の編集者が今はコミック雑誌を統括する責任あるポストに就いていると知り、おれは復讐に立ち上がった。般若の面にアフロヘア、紅白のしましまのシャツを着て、低い唸り声を上げ、水入りコンドームを振り回しながら駿河台交差点を渡ろうとしたおれの前方から、30年前と寸分たがわぬ衣装と外見で歩いてくる、楳図かずおの姿が目に入ってきた。ごめんなさいッ!悲鳴を上げて逃げ出そうと踵を返したおれの頭蓋骨が、乾いた音を立て、真っ二つに割れた。

 新曲だ。ドクロのアゴがでかい。

ザ・ディコンストラクション

ザ・ディコンストラクション