渡辺電機(株)

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平成名力士伝

その佐藤と名乗る新弟子の少年は、誰の目にも明らかに将来の大関・横綱を予感させる、才能とパワーが満ち溢れていた。だが彼は会話に難があり、奇声を発することでしか、感情を表現できなかった。彼の入門以来、部屋には朝から彼の奇声が途切れることがなく、それまでは親方の生真面目さもあり、常に緊張の張り詰めていた部屋の空気が、彼のお陰でだんだん和やかなものになって行った。力士たちにも自然と笑顔がこぼれるようになり、比例して各々の番付も上がっていった。いつしか部屋頭として部屋を牽引する立場となって行った彼が、大関昇進の使者を迎える席でも、あの奇声を発するのか、それとも大関にふさわしい口上を述べるのか。メディアが注目する中、紋付袴に身を包んだ彼がクワッと白目をむき、渾身の力を込め発した、かつてない高音域かつ大音量の奇声は、その場にいた全員の脳を瞬時に破裂させ、部屋中の窓ガラスを割り、半径3km以内のお年寄りと犬猫、鳥類の命を奪った。奇声の佐藤、その名にちなんで稀勢の里と名付けられた名力士の死屍累々たる出世街道は、始まったばかりだった。

Electric Light Orchestra [40th Anniversary Edition] (40th Anniversary Edition)

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