渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

忘れがたき人

飲み会の帰りに蔵前の厩橋の欄干にもたれて、隅田川の川面にむけてゲロを吐いていたら、「釣れますか?」のんきに話しかけてくるやつがあるものだから、ムッとして振り向いたら、元大関貴ノ花の藤島親方だった。釣れるわけないでしょ、親方。ゲロ吐いてんすよ。あ、じゃあそのゲロもらっとくよ。ハァ?聞き返すより先に、貴ノ花がおれの口元についていたゲロを指ですくいとり、ペロリと舐め取った。ちょ、汚いでしょ。角界のプリンスが、何やってんすかもう。ていうか、親方の部屋は中野でしょ。なんで蔵前に、あれ、親方?元大関貴ノ花に見えたその影は、夜闇の中でぐずぐずに崩れていって、もういるのかいないのかも、分からなかった。やっぱり死んじゃったのかな。寂しいなあ。もう北の湖も魁傑も、貴ノ花も、みんなこの世にいないのだ。川面の激しい水音に目を落とすと、おれのゲロに群がって、何匹もの相撲取りが激しい水しぶきを立てて争っていた。親方、安心してよ。次の世代が、育ってるよ…。おれはさらにこみ上げるものを、派手にえずきながら彼らの頭上に吐き散らした。

必要以上にかっこいいのですが、これは一体。