友よ

メロスは走っている内にだんだん脳内物質が出てハイになり、疲れも足裏の痛みも全く感じなくなり、通りすがりの佐川のトラックの前に立ちふさがると、配達の兄ちゃんを引きずり出して殴り倒し、車を奪った。佐川の配達と言えば屈強な偉丈夫の集団として知られるが、メロスに殴られた若者は前歯を全部折られ、気を失ってしまった。車を得たメロスは奇声を発しながら猛スピードで蛇行運転し、自転車の大学生や散歩のコリー犬を跳ね飛ばしながら、いつしか本来の目的も忘れ、海沿いのバイパスを突っ走った。困ったのはディオニス王で、もとよりセリヌンティウスを処刑する気などさらに無く、メロスの誠意を試すつもりで言ったひとことが、却って己を追い詰めることになったのである。ついに期限の3日を過ぎ、王は心ならずも刑の執行を命じた。すべてを受け入れ淡々と刑台へ引き立てられるセリヌンティウスの姿は、執行後も王の心に突き刺さり、幾度も夢に現れ、次第に王は精神を病んで行った。日がな一日飲まず食わずで泣き叫び許しを請い、やがて王は死んだ。一方メロスは今では、日光いろは坂の狂犬走り屋として、一目置かれる存在になっているという。

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