渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

二人の夏物語

電機さん、ウニたくさん採れましたよウニ。白鵬の弾んだ声に思わず腰を上げたが、バケツ一杯のオニヒトデを見て、ガッカリして再び焚き火の側にへたり込んだ。せっかくの秋巡業打ち上げの東京湾クルーズが一転、見知らぬ孤島に横綱と二人きりのサバイバル生活。とうとう食糧も底をつき、任せてちょうよと海に飛び込んだ横綱は、ウニとヒトデの見分けもつかないアンポンタン。もはやおれの悪運もこれまでか…。生のままバリボリとオニヒトデにかぶりつく横綱を眺めながら、コイツだけは生き残るんだろうな…と思ったが、おれの死体もたちまち横綱に食い尽くされるのだと気付き、堰を切ったように生への執着が湧き上がった。死んでたまるか。おれはバケツに山盛りの、まだ生きているオニヒトデをつかみ取り、口中に生臭さとシビレが広がるのもかまわず、何匹も何匹も、無我夢中で平らげた。翌朝、体をくの字に曲げて死んでいる横綱を呆然と見下ろすおれの体は、全身紫色に膨れ上がっていた。やがて皮膚は黒ずんだトゲトゲに覆われ、人間の心を失い、腐乱した横綱の屍体を残らず平らげる頃には、一匹の巨大なオニヒトデに姿を変えていた。そんなおれにも、未払いの国民年金の差し押さえは、容赦ないものだった…。

74 イズ・ザ・ニュー 24

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