海ぼうずの異名を取り、学園一の怪力男として番長の右腕と恐れられた高校時代。喧嘩に負けたことはなく、自信満々で飛び込んだマンガの世界で、おれは初めて自分の非力さを思い知らされました。石ノ森先生が小指一本おれの額に軽く押し当てただけで、おれがどんなに暴れもがこうとも、うんともすんとも、おれの体は磁石で張り付いたかのように、身動きがとれないのです。先生、参りました。これどういうワザなんですか。尋ねると先生、ちょっとはにかんだように笑って（こういうとこ、ホント可愛い！）秘密はこれさ。そういって見せてくれたのが、このトルマリンブレスレットです。東北の片田舎から上京して行くあてもなく、すがるような気持ちで市場で買い求めたこのブレスレットを身につけてからというもの、マンガは大当たり、美女が殺到、バクチはことごとく的中と、あっと言う間に人生の夢が全部叶っちゃったっつうじゃないですか。先生、おれもそのブレスレット欲しいっす。しつこく頼むと先生も根負けしたのか、渋々秘密のルートを、あれ、誰もいない。おーいみんな。なんだ、街中だれもいないじゃねえか。おーい。なんかサイレンなってんな。なに警報？よく聞こえねえ。おーい。おおーい。
