その特異な風貌から「漫画界のZZ Top」と呼ばれ、漫画読者のみならずバイカー集団にも広く知られていた渡辺電機(株)さんが関西コミティアの会場に現れた時、その変わり果てたみすぼらしい姿に、人々は言葉を失った。聞けば同人誌制作で借金がかさみ、かつては所ジョージの世田谷ベースをも凌駕すると言われた、ヴィンテージギターとアメ車、バイクの膨大なコレクションは、全て人手に渡ってしまったという。でもおれァマンガ描いてるだけで幸せなんだア！歯のない口で笑う、すっかり老いさらばえた渡辺電機(株)さんの姿に、大阪の人々はみな涙を流して泣き、しかし同人誌はまったく売れなかった。やがて閉会のアナウンスが流れ、場内に参加者の拍手が響く中、一冊も売れなかった本をブースに山積みにしたまま、渡辺電機(株)さんの姿は消えていた。誰かが手にしたその本の中身は、真っ白で何も描かれていなかったという。
