おれが黒ギャルだ！

大学のサークルの上級生・車崎さんは柔和な笑顔が印象的で、おれがどんなドギツく失礼な冗談を言っても「キミは才能があるなあ」と笑って許してくれる、優しい先輩だった。卒業後、普通の企業に就職したがすぐに倒産、以来ずっと神保町の老舗古書店で店番をしている。そんな車崎先輩と喫茶店で思い出話に花を咲かせ、ここはオレが持つよいえいえ先輩たまには、というやりとりの中、先輩の財布からカード類がテーブルの上にバラバラとこぼれ落ちた。慌てて拾い集めると、免許証に刻印された姓が「車崎」ではなく「狂魔裂」であることに気づき、おれは思わず手を止めて見入ってしまった。「見ちまったな」先輩の冷たく尖った声に思わず顔を上げると、そこにいるのはトレードマークのオーバーオールに身を包んだ小熊のような先輩ではなく、道化師の衣装に身を包み、満面の笑みを浮かべた殺人鬼だった。（続く

MY GIRL FRIDAY-1983-