渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

まごころを君に

スターリンのギグに行こうと、勉強部屋で気合を入れて髪をスプレーで立て頬に安全ピンをぶっ刺していたら、お父さんがはいってきて、まさのりおまえべんきょうはどうしたんや!とゆうので、ふぁっくおふとゆってやりました。そしたら、ぼくがなんにもしないのに、おとうさんはおこって、ぼくのかみをあらってきりそろえ、おかっぱにしてしまいました。ところがそこにモッズのブームが来たものですから、捨てる神あれば拾う神ありです。期せずしてマッシュルームカットで、一気にシーンの最前線です。さっそく古着のモッズコートに軍放出品のリュックを背負い、ヴェスパで新宿ロフトに…と思ったら、お父さんがはいってきて、まさのりおまえべんきょうはどうしたんや!とゆうので

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マスメディア亡国論

「ここに10万人のに宮崎勤がいます!」「ウワーッ本当だッ!!」あの独特の上着を10万着、眼鏡を10万本揃えるだけでも、大変な手間と費用がかかったことは、想像に難くない。渡辺電機(株)さんの出費はいかばかりかと心配になったが、さすがに彼も抜け目がない。「若奥様のナマ下着」10万部の印税をちゃっかりゲットした彼は、その金を元手にネットワークビジネスを展開、今では宮崎勤も数百万人の規模に膨れ上がり、頂点に立つ渡辺電機(株)さんは働かずして、秒単位で数億円の収入を得ているという。そんな夢物語を語り終えぬ内に、登別バイパスの側溝に横たわり飢えと寒さをしのいでいた渡辺電機(株)さんの魂は、肉体を離れて冬の空へと消えていった。

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人肉団子三兄弟

人間のメザシが食いてえなあ!横綱の気まぐれな一言で、おれの運命は決まった。相撲界で用済みになった怪我人やロートルの力士たちとともに、眼窩をくりぬかれて藁をぶっ通して数珠つなぎにされるのだ…。せめて、美味しく食ってくださいよ。すっかりあきらめて天日干しにされる列に粛々と並んでいると、横綱のiPhoneがけたたましい呼び出し音をならした。不承不承といった表情で、面倒くさそうに液晶に視線を落とした横綱が、弾かれたように直立不動になり、威厳もなにもない裏声で応答した。でっ電機さん!いえその、今メザシを…。はい、はい、仰る通りです、はい。今すぐ伺います…はい…。哀れなほど狼狽し、深々と最敬礼しながら通話を終えた横綱は、ほうっ、と大きなため息をついて天を仰いだ。電機さんとこ行って来る!せわしげな雪駄の音を響かせながら、あたふたと駆け出す横綱。あの大横綱をこれほどまでに怯えさせる渡辺電機(株)さんとは、いったいどんな人物なのか…。

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ベースボール・ブギ

鉄のカーテンと呼ばれ、報道陣にも一切公開しない、V9時代の常勝巨人軍の謎の秘密練習。重く閉ざされた鉄の扉の内側では、川上監督を中心に円を描くように練習場内に座り込み、一心不乱にエロ本を読みふけるV9戦士たちの姿があった。パ・リーグ史上屈指の強打者として輝かしい実績を築き、夢にまで見た巨人軍への入団に胸踊らせてグラウンドにやって来た、張本の胸中、察するに余りある。複雑な思いを全て飲み込み、残り少ない現役生活を栄光の巨人軍に捧げながら、彼の精神は静かに平衡を失って行った。晩年、ロッテへの移籍を経て引退。その数年後に歯に衣着せぬ異色の評論家としてメディアに登場した時、彼は既に何を聞かれても女性器の呼称を絶叫するだけの、狂人と化していた。そんな彼がタレントとして確固たる地位を占めるのが、芸能界の懐の深さなのだ…。

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忍びが通るけもの道

佐川の配達が来たと思ったら伊賀で一緒だったやつで、久しぶりぃと声をかけたら、いきなり顔面を爆薬で吹き飛ばして自害してしまった。抜け忍だったのだ。アマゾンから届いたエロマンガも焦げてしまった上に、警察には殺人犯の汚名を着せられて無期懲役の判決を受け、この八丈島で死ぬまで暮らすことになるとは…。

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まさおの夢

長男の正男が殺され、次兄も本国で消息がつかめない。四男の正(株)こと、このおれの命も、危ないのかもしれない。かと言って、この東京の片隅の安アパートに住む工員のおれに、何ができるというのか。自嘲の笑いをもらしつつ、床につく。このまま目が覚めなかったりしてな、フフフ…。そぼ降る雨が、トタン屋根を静かに打つ。ウトウトしかけ、フと気がつくと。玄関のドアの向こうに、濡れて立つ気配。ああ、殺された正男兄が、心配して訪ねてくれたんだなあ。わざわざマレーシアから、すまないな…。兄のために熱いコーヒーを入れようと、湯を沸かしに立つ自分の後ろ姿を見送りながら、自分と兄とどちらが先に死んだのか、もう思い出せなくなっていた。

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空の塔

シンナーに気をつけて壁塗んなー。と繰り返していた親方が、だんだん口調がゆっくりになってきたと思ったら、その手からポロリと刷毛を落とし、へらへら笑いながら足場から滑り落ち、真っ逆さまに空中に消えていった。何千メートル下かもよくわからない地面に落ちて、欠片も残さず飛び散るだろう。これで、おれ以外の職人は全員落ちてしまった。赤のペンキはまだいくらでもある。いつ来るかもわからない迎えを待ちながら、おれはひたすら上へ上へと、この鉄塔を赤く塗り続けている。

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