渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

魔獣戦線

プロレスなんて、あれ全部インチキでしょ。聞こえよがしの声を背中に浴び、渡辺電機(株)さんの巨大な背中がこわばるのが、はっきりと見て取れた。おいやめとけ、素人に手を出したら終わりだぜ電機さん。隣で心配そうなカブキの声も耳に入らないのか、渡辺電機(株)さんはゆっくりと立ち上がり、店内に向き直る。おい誰だ、今言ったの。静かな店内に響く、渡辺電機(株)さんの野太い声。どうした、出てこいよ卑怯者が。インチキかどうか、自分で試してみりゃいいじゃねえか。私です。一番奥のカウンターに陣取る男が、立ち上がる。手塚治虫だった。どうもどうもどもども。私ね、一度でいいからプロレスラーの本気の技、かけられてみたかったんです。や、楽しみだなほんとに。いそいそと嬉しそうに服を脱いだ手塚の裸体は、たゆまぬ鍛錬で筋肉が研ぎ澄まされ、皮膚には数々の死線をくぐり抜けて来た証の、様々な傷跡が刻まれていた。気圧されながらも気を取り直し、不意をついて渡辺電機(株)さんが放った水平撃ちが手塚の胸板に叩き込まれる。破裂音とともに液状化し、消滅する渡辺電機(株)さんの右腕。さあ、覚悟なさい電機さん。あなたの親友の横綱も、天国で待ってますよ。慌てて逃げ出そうとしたカブキの後頭部を鷲掴みにして握りつぶすと、手塚は暖かな笑顔を渡辺電機(株)さんに向け、ゆっくりと近づいて行った。

In Mind

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