ダンシングクイーン

ABBAの新メンバーのオーディションのため、はるばるスウェーデンを訪れた渡辺電機(株)さんは、他の応募者が全員相撲取りであることに失望を隠せなかった。ストックホルムくんだりまで来て、お風呂と鬢付け油の香りに包まれるとはな…。しかも、肝心のオーディションで真っ先に落とされたのが渡辺電機(株)さんで、理由が「身長・体重・基礎体力いずれも足りない、力士に不向き」というもので、目を白黒させ改めて募集要項を確認した渡辺電機(株)さんは、それがABBAの新メンバー募集ではなく、相撲協会の新弟子検査会場だと気付いた。そのころ横綱は、両国国技館のABBAオーディション会場でスウェーデン人の生白い男女に囲まれて、途方に暮れていた。

ホワイトアルバム

ヘルタースケルター！！全裸で両手にバナナを持ち、小ぶりの陰茎をプロペラ状に回転させながら、ニューヨーク五番街のスクランブル交差点を駆け抜けて行く渡辺電機(株)さんに、通りかかったニューヨーカーたちは全く関心を示さない。🎵ででででででーで、どん！どん！どん！どん！ あまりにも有名なビートルズナンバー「バースデイ」のリフを繰り返し絶叫しながら、相撲のすり足でクレープ屋ににじり寄って行った渡辺電機(株)さんは、哀れに思った店主からホイップクリームひとなめを分けてもらい、満足げに同じ調子で歌いながら去って行く。この様子では、とても酷寒のニューヨークの冬を乗り切れないだろう。一体、何のために生まれて、死んでいくのか…。

Space Oddity

横綱、私の声が聞こえますか…。大枚はたいて宇宙旅行のキップを手に入れ、所定の期間で規定のトレーニングを受け、特注の力士用宇宙服（大銀杏の収納が可能）も用意して、夢にまで見た月面歩行を楽しんでいた横綱の耳に、ハッキリと聞こえてきた渡辺電機(株)さんの声。まさか、月面でそんな。驚愕して見回すと、バニーガールの耳と尾を装着して全身白のレオタード姿の渡辺電機(株)さんが、餅つき用の巨大な杵で殴りかかってくる。ちょ、宇宙服壊れたらシャレなんないって…振り降ろされる杵を避けようと、動きにくい宇宙服で必死に逃げ惑う横綱を、裸同然の渡辺電機(株)さんがゲタゲタ笑いながら追いかけ回す。月面に空気が無いなんてなァ横綱、ありゃあウソだぜ！そう言って笑った渡辺電機(株)さんだったが、もちろんそんなワケはなく、すぐ紫色にふくれ上がって死んだ。せっかくの旅行を台無しにされた横綱だったが、怒るどころか月面に墓標を建てて丁重に渡辺電機(株)さんを葬り、今でも年二回の墓参りを欠かさないという。

バカとつき合うな

永年の宿敵である白鯨モビィ・ディックとの戦いの果てに、相手の体にモリを突き立てたまま海の底に沈んだ渡辺電機(株)さんだったが、海底で思わぬビジネスチャンスが転がり込んできた。直ちに出資者を募り２億のクラウドファンディングを成立させ、海底バブルに乗って会社を立ち上げるとたちまちのうちに軌道に乗せてグループ化、巨大コングロマリットの総帥として辣腕を振るったが、水中なのですぐ溺れて死んだ。遺体は見つかっていない。

ハスラー２

「黒い稲妻」の異名を取る弾丸アシスタントとして多くの漫画家を失禁発狂させ、漫画界を震撼させた渡辺電機(株)さんだったが、自身がプロの漫画家としてデビューした際には、打って変わった穏やかな作風と平和を強く訴えるヒューマニズムで、世間をアッと言わせた。私は、多くの漫画家を不幸に追いやった、忌まわしいアシスタント時代の贖罪として、創作活動を行っているのです。私は己の残りの人生の全てを、人々のために捧げる所存です。悟りきった顔つきで取材に応える渡辺電機(株)さんの穏やかな笑みは、まさに仏像の笑みそのものであるとして、海外メディアにも広く取り上げられてManga Bosatsuと呼ばれ、平和のアイコンとして親しまれた。そして月日は流れ、ノーベル漫画賞の授賞式会場。これで贖罪は終わりだ！Hey, Come Back !! そう絶叫して渡辺電機(株)さんは賞状を引き裂き、ビリヤードのキューで隣にいた村上春樹のむき出しの睾丸を、思い切り突いた。甲高い雄叫びを上げて弾け飛んで行く村上をよそに、颯爽と会場を後にする渡辺電機(株)さんに、国連軍が機銃掃射の集中砲火を浴びせる。轟音が途絶え、もうもうたる白煙が鎮まると、あとには何も残っていなかった。

宇宙船地球号

布袋寅泰邸の庭園に建てられたコテージで共同生活し、HOTEIと同じヘヤスタイルで外出時のHOTEIに付き従い、HOTEI の一挙手一投足にセヤッ！セヤッ！と合いの手を入れる、総勢20人から成る最強HOTEI軍団。その一員として、長く世話になった布袋邸を離れ、単身日本に戻って漫画家を志した渡辺電機(株)さんだったが、HOTEIヘアでブリーフ姿の中年男性を受け入れてくれる出版社は、いかにHOTEIの紹介があっても、そうやすやすとは見つからなかった。万策尽きて西深川橋の欄干にもたれて、ぼんやり佇む渡辺電機(株)さんのHOTEIヘアも、すっかりくたびれてしんなりと折れ曲がっている。充血した目には、もはや正常な思考を示す光は無かった。チキショウばかにしやがって、武士は食わねどつま楊枝だッ！カバンから一本のバナナを取り出すと、道行く相撲取りたちに襲いかかる。のちに三役にまで上り詰める力士・布袋錦が誕生した瞬間であった。

人間解体

クラフトワークに憧れて赤いワイシャツ姿で登城、松の廊下をロボット歩きしていたら、口うるさい吉良上野介に嫌味を言われたので、ボコーダーを通した声でコロスと言ってロボット歩きで追いかけ回し、KORGのポケットシンセでブン殴った渡辺電機(株)さんは、切腹を申し付けられ、辞世の句「Boing Boom Tschak」を遺し、江戸城の庭にその命を散らした。四十七士どころか家臣も妻子もダチもいないニート野郎で、家でぶらぶら働きもしない渡辺電機(株)さんを疎ましく思っていた両親もむしろ安堵して、特に仇討ちのムーヴメントが盛り上がることもなく、今では覚えている人もいない。