ぼぼ、ぼくはおにぎりが食べたいんだナ…。白いランニングを着て、馬鹿の笑顔で近づいて来る横綱を、田園の人々は温かい笑顔で迎えたが、渡辺電機(株)さんだけは険しい表情で唾を吐きかけ、誰がてめェなンかにおにぎるかよゥッ！と罵倒した。その唾を避けようともせず、横綱は渡辺電機(株)さんの胸ぐらを掴んで軽々と持ち上げてグイと顔を近づけると、ドスの効いた低く野太い声で、てめェには頼んでねぇよゴミ。氷のような言葉を浴びせ、田んぼの泥の中に渡辺電機(株)さんを放り捨てた。チッキショー覚えてろイッ！正体を現し、キムタクの姿に戻ってぴょんぴょんとガニ股で飛び跳ねながら逃げて行く渡辺電機(株)さんを誰も振り返る者はなく、人々は我も我もとおにぎりを手に、横綱に群がっている。この時の怨恨が元で、次の大相撲本場所は初日から血の雨が降る地獄場所として、長く語り伝えられる伝説の15日間となるのだが、田園はあまりにものどかな陽光と笑い声に満たされ、平和な時間が流れていた。
