そして誰もいなくなった

ぼくたちわんぱくトリオだぞ♫ と、同じ顔の兄弟２人と一緒に能天気に歌いながら、身寄りのない力士からなけなしの貯金をだまし取ったり、健気に親を介護する力士を強姦したり、毎朝自主的に部屋の周辺の道路を掃除する力士を袋叩きにしたり、悪逆非道の限りを尽くした渡辺電機(株)さんにも、最後の時がやって来た。激しい雨の中、雷鳴と共に青白い稲妻が3人を襲い、焼け焦げてイレイザーヘッドのような外見で咳き込む渡辺電機(株)さんの両脇で、２人の弟は泥人形の姿に戻り、その場に崩れ落ちてブスブスと黒煙を上げた。雨足が弱まり日が差し始めた空から、横綱の声が響く。力士の名の下に、貴様に天罰を下す。再び激しい雷鳴と、稲妻。ひらりひらりと身をかわしながら、不敵な笑みを浮かべる渡辺電機(株)さん。てめえ横綱、おれの木偶の分際で、言うじゃねえか！懐から取り出した、ちょんまげを結い綱を締めた土人形を、思い切り地面に叩きつける。と、雨は止み雲は晴れ、何事もなかったかのように静寂が訪れた。もうこの世界に、横綱の気配を感じることは、無かった。かけがえのないものを自らの手で失った淋しさに、渡辺電機(株)さんは甲高く一声ピーヨと嘶くと、西の空へと飛び去って行った。

Let's All Chant - Single