「おれぁ上州虎だぞ！ここらじゃちったぁ知れた顔だ」そう言ってスゴんで見せる貧弱な初老の男が渡辺電機(株)さんなのは一目瞭然だったが、相手の男は気づいた様子もなかった。「そうかいそらぁ良かった。俺はドサ健ってもんだ」その野太い声の正体が横綱であることにすぐ気付いた渡辺電機(株)さんだったが、何か言う前にドサ健と名乗る男が背中を軽く人差し指で押すと、渡辺電機(株)さんの身体はドシャ降りの中を、どこか遠くへ吹っ飛んでいき、雨風の音の中に消えてしまった。それきり上州虎の足取りも、渡辺電機(株)さんの作品もぷっつりと途絶えたが、気に留めるものもなく、戦後の混乱の中に忘れられて行った。
検索しにくいバンド名の横綱なのではないか。こんな時代が来るとは…。
