渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

男の隠れ家クッキング

子供も手がかからなくなり、何もすることがない空虚な余暇を過ごす内、無趣味な自分に初めて気づいた渡辺電機(株)さんは、同僚に誘われて始めた蕎麦打ちにのめり込み、ついには退職金を前借りして自宅を改装、手打ちそばの店を出すに至った。泣いて止めた妻子は諦め、そして呆れて、出て行った。蕎麦屋は開店と同時に客が殺到、長蛇の列が数百メートルに及び、しかも客は蕎麦を食べ終える前に食中毒を起こしバタバタと倒れ、死骸の山を築いて行った。三日三晩一睡もせず、注文に応じてひたすら蕎麦を打ち、茹で続けた渡辺電機(株)さんが我に返ると、町内の人間全てが彼の蕎麦を食べ、死体の山を成していた。おれは、やり遂げた。ガクリとその場に膝をつき、一気に襲ってきた睡魔に負けて気を失った。どのくらい眠ったのか、芳しい鶏ガラスープの香りに目を覚ますと、ぐつぐつと美味しそうに煮え立つちゃんこ鍋の前で、優しい横綱の膝の上に抱かれている自分に、気付いた。幸せって、こういうことなんやな…。何か言おうと横綱を見上げると、突如クワッと目を見開いた横綱が、やおら渡辺電機(株)さんの身体を鷲掴みに、ものも言わず煮え立つちゃんこの中へ放り込んだ。渡辺電機(株)さんの身体は沸騰する鶏がらスープの中でくるくると回転し、そのまま沈んで行った。そして宮城野部屋の平和な夕食が、何事もなかったかのように始まった。

Chase (From

Chase (From "Midnight Express")