渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

春は馬車に乗って

石森プロで泊まり込みの仕事中、石ノ森の過去の全原稿が保管された資料室のソファで仮眠をとっていたところ、疲れと緊張があってか、恥ずかしながら夢精してしまった。石ノ森章太郎の生原稿に埋もれて夢精する贅沢さよりも、映画「兵隊やくざ」で娼婦を買う勝新太郎の白い尻の夢で果ててしまったことが屈辱で、おれはその仕事を放り出して旅に出た。ヒッチハイクやマグロ漁船の日雇い、遊牧民との交流などで全世界をさまよい幾星霜。尾羽打ち枯らしてたどり着いた石森町の石ノ森章太郎ふるさと記念館では、ロマンスグレーのアフロヘアにサングラスを掛けた小太りの老人が、満開の桜の下でにこやかにおれを待っていた。そうか、あの時おれは、勝新太郎の尻で果てたあの時おれは、死んだんや。30年の歳月をかけて師匠の元へたどり着いた、渡辺電機(株)さんのこの世への未練が今ようやく、舞い散る桜の花びらとともに、散り散りに消えていった。

T.V.MAGIC

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