耄碌が進んで、せっかく覚えた日本語も急速に忘れていき、もう何を言われても甲高いかすれ声で「アケボノー、ダメダヨー！」としか返せなくなってしまった親方に、もう一度言葉を思い出してもらおうと、懐かしのオレンジ色の褌を履かせて土俵に上げてみた。急に生気を取り戻した表情になった親方は、おれの「はっけよい！」という叫びに呼応して、モノスゴい勢いで突進してきた。殺される。観念して目を閉じたが、親方はおれの脇を駆け抜けて、そのまま地響きを立てて表へ飛び出していった。慌てて外へ追いかけると、親方はすでに両国橋から隅田川に身を投じ、甲高い声でドスコイドスコイと叫びながら、太平洋へ向けて悠々と泳いで行くのだった。ハワイに、還るんだな。元気でな、ジェシー…。だが翌年春、産卵のために隅田川を遡ってきたモノスゴい数の高見山の群れを見て、そんな感傷も吹き飛んだ。おれは生態系を破壊した罪で逮捕され、巣鴨刑務所に永く勾留され、人知れず獄死したという。
1983年のスマッシュヒット「ねえ、船乗りさん」覚えてカラオケで歌おう！
