「鬼が棲む」と言われ、業界に知られるスパルタ方式でアシスタントを次々とデビューさせる渡辺電機(株)さんのスタジオだが、その実態は凄惨なリンチと言葉の暴力による支配が横行する、超ブラック職場であった。そんなパワハラ野郎の渡辺電機(株)さんを懲らしめてやるッ！ギョム、ギョム、ギョムと時空を切り裂く音ともにワープして現れたのは、手塚治虫、石ノ森章太郎、寺田ヒロオの三巨人。傲慢な後輩に、偉大な先駆者としてガツンと言ってやる！意気込んでスタジオのドアを蹴り破って上がり込む３人。冷えて湿った空気の、薄暗い室内には、誰もいなかった。薄っすらと埃の積もった床の上に、経年劣化で変色した漫画の原稿が散乱している。指でつまみ上げると、ボソボソと崩れ落ち、剥がれたネームとセロテープが、ハラハラと舞い落ちた。もう、100年は経ってるぞ。どういうことなんだ。と、ゴミ山の中に埋もれていたテレビのブラウン管が明滅し、モノクロの荒い画像の向こうに、水槽の中に浮かぶ脳髄が、映し出された。遅かったな、待ちくたびれたぞ。肉体はとうの昔に滅びた、渡辺電機(株)さんの進化した姿であった。霊界よりの使者と脳髄、究極の死闘の火蓋が今、切って落とされた。
