スタア誕生

全裸で左右の乳首にボンボンを付け、股間にはキティちゃん仕様の天狗の面を装着した渡辺電機(株)さんが、オールスター感謝祭のスタジオに入れてもらえず放送局の廊下で震えていると、あんたそんな格好でなにしてんのと、野太い声で優しく話しかけてきたのは、誰あろう超大物歌手の和田アキ子であった。初めて見る実物のアッコさんは身長150cmにも満たない小柄な老婆で、ひどい猫背で皺とシミだらけだった。もう歳やさかいな、一日中あの姿勢維持するのは、さすがにシンドいわ。笑って、スタッフの呼び声に立ち上がり背筋を伸ばすと、巨大なアフロヘアに凛としたつややかな美貌、身の丈２ｍはあろうかという偉丈夫は、まさしくテレビで見知った、あの和田アキ子その人であった。振り向き、あんたこの世界向いてないで、道誤らんとき。そう言ってウインクすると、スタジオの光の洪水の中へ、颯爽と消えて行った。渡辺電機(株)さんは駆けつけた警官に連行され、それきり消息もわからない。

わが解体（1980 / 文学バンド「文学のススメ」収録曲 / ショート・ヴァージョン）