渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

除夜の鐘

かつて内田裕也、ミッキー・カーチス、尾藤イサオらとともにロカビリーの一時代を築いた渡辺電機(株)さんも、ブームが去った後はシーンから忘れ去られ、北海道は登別温泉で、歌手時代のファンの経営する観光ホテルの下足番として、不遇の日々を送った。普段から音楽の話題を極端に嫌い、たまに気付いた客に声をかけられると不機嫌になる渡辺電機(株)さんも、毎年大晦日の紅白歌合戦だけは、四畳半の自室で大好きな甘酒とホタテ貝柱の干物を楽しみながら、白黒テレビにかじりついて夢中になった。白黒テレビで紅白とは、皮肉なもんだな電機さん。画面の中から、井上順がにやにやしながら語りかける。なんだと、このや朗。思わず声を荒げたが、すでに井上順は渡辺電機(株)さんなど眼中にないそぶりで、研ナオコやジャスティン・ビーバーらとの寸劇で派手にずっこけて見せ、観衆の笑いを取っていた。こっち向けよこらぁ!渡辺電機(株)さんの怒声はホテル中に響き渡り、なんだなんだと集まってきた宿直の職員や宿泊客が覗き込んだ無人の四畳半には、地デジの時代にはありえない古めかしい白黒テレビが、ぽつんと置かれていた。画面に明滅するノイズの中に時おり、殴られたりずっこけたりしながら走り回る、渡辺電機(株)さんの影らしきものが映るが、それに気づく者もなかった。ホテルはいつもの静けさを取り戻し、除夜の鐘がどこか遠くから、かすかに鳴り響いた。

Pac-Man Fever

Pac-Man Fever