渡辺電機(株)さんは自分では全くアイドルになる気はなく、ルックスにも自信がなかったので、将来は普通のＯＬになるものだと思って暮らしていた。それが、妹が勝手に自分の名前で申し込んでしまったので、仕方なく「スター誕生！」の予選にエントリーした処、あれよあれよと勝ち抜いて本番まで残ってしまった。楽屋で緊張のあまり顔面を紫色に腫らして激しく痙攣し、間欠泉のように黄緑色の体液を吐き出していると、一緒に出場する少女がライバルであるにも関わらず「大丈夫？」と心配そうに背中をさすってくれた。山口百恵と名乗るその少女は、渡辺電機(株)さんと同様に家族の勝手な応募により、渋々やって来たのだという。わたしたち、なんだか似た者同士ね。一緒にデビューできると良いわね。手を取り合って健闘を誓った二人だったが、現実は厳しい。栄光のデビューを掴んだ渡辺電機(株)さんとは裏腹に、あの山口と名乗る優しい少女は不合格となり、ステージ上で一斉射撃を受けハチの巣になった。トロフィーを手に大口を開けドス黒い哄笑をまき散らしていた渡辺電機(株)さんは突如悶え苦しみ始めると、やがて一匹の汚らしいトカゲに姿を変え、未練がましく振り返りながら、歴史を改変してしまった自覚も無いまま、壁の割れ目の中へと消えた。
潔いダメテクノ。ダメなノイバウテン。ダメの美。
