渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

ああ浦見灘

浦見魔太郎のその後については意外と知られていないが、中学卒業を控えて父親が失業、その時点で数百万の借金をして愛人に貢いていたことも発覚し、一家は離散していた。とにかく飯がたらふく食いたい一心で、相撲部屋に入門した魔太郎は、力士になってもやっぱりイジメられていた。稽古で叩きつけられ罵られ、部屋の日常でいびられた恨みを相撲にこめ、魔太郎は強くなって行った。最初の内こそうらみ念法に頼っていた彼も、猛稽古に明け暮れる日々、次第に本当の力をつけていった。学校での凄惨ないじめに比べれば、相撲部屋のしごきなど、彼には何でもなかった。場所ごとに番付を上げ、風貌も力士らしくなっていく中で、彼は次第に人間の記憶を失い、身も心も力士そのものになって行った。新入幕で10勝5敗、敢闘賞の受賞を決めた魔太郎の支度部屋に、懐かしい人が訪ねてきた。「魔太郎、久シブリダナ!オメデトウ」昔と変わらぬ小さい姿の切人が、目を潤ませて駆け寄った。「コレハ三賞ノオ祝イダ!サア飲ンデクレ!キキッ」切人が差し出した青酸カリ入りコーラのペットボトルを無言でひったくり、一気に飲み干した魔太郎は、軽くげっぷをしてニヤリと微笑み、何年ぶりかで「コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ〜…」と呟き、切人に向けて親指を立たせて見せると、笑顔のまま仰向けに倒れ、絶命した。黙秘を貫いたまま刑務所に送られた切人は、刑期の20年を終え出所した後もこの件について一切言及することなく、生涯を終えた。終生、魔太郎の墓参りは欠かさなかったという。

サンシャイン・スーパーマン

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