渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

キャンディ・キャンディ・キャンディ

テキサスいちの荒くれ者、保安官にも手のつけられない鼻つまみ者の渡辺電機(株)さん。近所の牧場の馬を捕まえて丸焼きにして食ったり、国立公園の山の主といわれる巨大バッファローを素手で倒し、角を両脇に抱え意気揚々と引き上げて来たり、川で素潜りをしてはアリゲーターをいじめるものだからワニが一匹残らず逃げてしまったり、強欲で粗暴な大男だった。それが34歳の夏、ガソリンを残らず飲んでやるつもりで忍び込んだ深夜のガソリンスタンドに捨て置かれた、一冊の本を手に取った時、運命が変わった。いがらしゆみこ「キャンディ・キャンディ」という日本のコミックに、彼は魅了された。ここに描かれているアメリカは、おれの知っているアメリカの暮らしとどうしてこんなにかけ離れているんだろう。憧れをつのらせた彼はまんがに倣い、髪を伸ばし、少女のような言葉遣いを心がけ、彼なりに一生懸命おしゃまで天真爛漫な乙女を演じた。日頃の凶暴さに気持ちの悪さも加わって、いよいよ村に居づらくなった彼は、隣の牧場の馬を二頭、両脇に抱えて勝手に街で売り払い、得た金で航空券を買って、あこがれの国・日本を目指した。身の丈2m、毛むくじゃらの青い目の女装男、渡辺電機(株)さんの漫画家修行は、いま始まったばかりだった。時は昭和60年、春のことである。

OPTIMISM (REMASTERED AND EXPANDED EDITION)

OPTIMISM (REMASTERED AND EXPANDED EDITION)