食べている途中でゲロを吐くという画期的な演出で、一気に食レポのスターにのし上がったおれだが、プライベートで外食をする際にはゲロどころかゲップや咀嚼音すら立てず、慎ましやかに完食して笑顔でごちそうさまを言って席を立つので、先輩の彦麻呂さんに、やらせ、偽物、フェイク野郎と面罵されて、返す言葉もなくじっと耐えるしかなかった。じゃあ、先輩はどうなんすか。じっと飲み込み耐えたその言葉は、おれの中で煩悶とともに大きく膨れ上がり、ついにおれは仕事上がりの彦麻呂を尾行することにした。てめえのTVとは雲泥の仏頂面の食いっぷりを、暴いてやんよ。コツコツと足音を響かせ、満月で明るい夜道を一人歩く彦麻呂は、一向に外食店に入るそぶりもなく、やがてコツコツ響く足音とともにその後姿は次第に丸く膨れ上がり、気付いたらそこにはまあるい満月が、満面の笑みを浮かべて夜空にぽっかり光っていた。なあんだ先輩、そうだったんですか。おれもなんだか暖かな気持ちになり、まあるい笑顔になってコツコツと家路を急いだ。
