渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

蛹の季節

宮城野部屋の稽古場に白鵬を訪ねたが、薄暗い土俵は無人で、上がり座敷も静まり返っていた。気配を感じて見上げた天井には、人間の倍ほどもある大きさの蛹が、折り重なるように何体も、果実の房のようにぶら下がっている。この季節が来たか…。おれは業者を呼んで蛹を全て下ろしてもらい、土俵に積み上げた。無人の調理場から天ぷら油の2リットル瓶を持ってきて、蛹の山にドボドボと、まんべんなく振り掛ける。羽化した力士はあたり構わず飛び回り、ちゃんこを食い荒らす害獣なので、蛹の内に焼却せねばならないのだ。横綱、楽しかったよ。さようなら。ライターの火で蛹は一瞬で炎に包まれた。炎は天井板に燃え移り、外に出たおれがヴェスパにまたがって振り返ると、もう部屋全体が炎に包まれ、黒煙を噴き上げていた。次の横綱とも、友だちになれるだろうか…。

吉野大作の少年時代

吉野大作の少年時代