あのデカイ図体で正義の味方ヅラをしやがる日本人、ジャイアント馬場の野郎を、日本のリングでブチのめして観客どもの悲鳴を聴くのが、このオレ様の何よりの楽しみなのさ！さあ行くぜ！悪徳マネージャーの小柄な日系人、通称「黄色い裏切り者」を従えて後楽園ホールのリングに上がったオレには、満員の観客からアメ公帰れコールと紙コップが、雨あられと投げつけられた。すでにリング上でゆっくりとガウンを脱ぎ、沸き返る客に軽く手を上げてみせる馬場に近づき、大げさに中指を立てて吠えた。おいジャップ！今日がてめえの葬式だぜ！馬場はなぜか悲しげに微笑み、いや電機さん、もうおれの葬式は済ませちゃったんだよね。ゆっくりとした野太い声は、なんだか頼りなく、遠くに去って行く雷鳴のように、どこか弱々しかった。満員だったはずの客席は静まり返り、暗闇の中に無数の古ぼけた卒塔婆が立っているのが、わかった。今日はおれの葬式じゃないんだよ、電機さん。馬場のすまなそうな声が、ぐるぐると頭のなかにこだまする。おれは身動きも取れず、無数の卒塔婆を見上げながら、自分がどんどん暗闇に沈み込んでいくのを、感じていた。
