渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

もののけの夜

ノーベル変態賞受賞の知らせを受けた時おれは、銀座の「黴」で野坂がホステスを口説くのに付き合わされ、少々ウンザリしていた。店内になだれ込んできた報道陣がおれに群がり、口々にけたたましく喚き立てるが、鳥の言葉を理解しないおれは、申し訳なさそうに微笑んで首を振るしか無い。見かねたママがおつまみのナッツを床に撒いてやると、彼らは取材そっちのけでナッツに群がり、我先についばみ始めた。既に泥酔状態で何が起きているのかも理解していない様子の野坂が、ホステスと見分けもつかず、記者の尻の羽毛に顔を埋めて、接吻を繰り返している。すまないねママ、お代はあらためて。阿鼻叫喚のフロア越しにカウンターの向こうのママに手を合わせて退出、タクシーを捕まえて飛び乗り、ようやく一息ついた。おやお客さん、いまニュースに出てる人じゃないですか。バックミラー越しに笑いかける運転手は、黒光りするゴキブリの顔をしていた。ああ、忙しくなりそうだ。早く帰って明日に備えて寝たいよ。じゃあ、私からのお祝いで特急便のサービス。特別ですよ。言うなり、ゴキブリは俺を乗せたまま羽を広げ、銀座の夜空へバタバタと舞い上がった。

ブオーネ・ノティツィエ(紙ジャケット仕様)

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