渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

先生の思い出

三条大橋で肩がぶつかったなど些細な事が原因で口論となった会津藩士数人と乱闘になり、素手で藩士たちの首を次々もいで鴨川に投げ捨てたという伝説を持つ渡辺電機(株)さんだが、その怪力と逆上すると手がつけられない凶暴さとは裏腹に、普段は目立たずおとなしく従順で、ぽつんと1人座ってオカメインコのピーコちゃんを可愛がる、内気で心優しい大男であった。漫画の背景の作業も人一倍おそく、締め切りも重なったある夜、とうとう師匠の石ノ森章太郎を怒らせ、可愛がっていたインコを檻ごと踏み潰され殺されてしまった。ピーコちゃんを殺されたと知った渡辺電機(株)さんは、お"お"お"と野太い咆哮を上げながら、世話になった師匠の石ノ森に襲いかかった。怒りを込めた巨大な拳が頭上に振り下ろされたと思った刹那、石ノ森はそこにはいなかった。「やればできるじゃないか」天井の梁に片手でぶらさがり、快活に笑う石ノ森の肩には、殺されたはずのオカメインコが、目をきょろきょろさせながら止まっていた。「その怒りを忘れるな、渡辺。お前はいつかきっと、世界を変えるまんがを描く漢だ」「石ノ森先生!」おかっぱ頭にオーバーオールの大男が、子供のように泣きじゃくった。だが翌日、会津藩の意を受けた新選組の急襲により石森プロは壊滅し、渡辺電機(株)さんも命を落とした。文久四年の、秋のことだった。

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