渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

三流劇画の世界

早朝マラソンを装って外出、線路沿いの自動販売機の前を二度、三度行き来して目星をつけ、人通りの無いのを見計らい、すばやく百円玉を投入してボタンを連打、無神経なブザーとゴトリと重いものが落ちる音。ダッシュで取り出した「劇画アイドル」(辰巳出版)をジャンパーの腹の中に隠し、全力疾走で自宅へ戻る。しゃくれ顎の女性キャラが全く魅力的でないあがた有為を巻頭に、1ミリも興味を掻き立てない駄エロ劇画が連なり、唯一魅力的な絵柄の飯田耕一郎はエロシーンが無く、あとは高信太郎と渡辺和博のヘタウマギャグ。登校前に号泣するおれを不審に思った父が、どうしたのか聞いてきたので、わけを話して本を見せた。その日から、40年に及ぶ長い長い座敷牢暮らしが始まった。全く外の世界を知らぬまま月日を重ねて初老を迎え、今日ようやく外出を許されたおれは、さっそく近所の中学校で投票を済ませ、その足で駅前に出てモスバーガーで昼メシがてらゲラに目を通し、特に問題がないことを編集さんにメール。ドンキで烏龍茶と豆乳を買って、家路についた。家は跡形もなく、敷地は何年も前から巨大なマンションの一部になっており、若い親子連れがあいさつを交わす風景の中、おれの姿も消えていた。そこにおれが存在した痕跡は、もう何もなかった。

社長になりたいそうです。