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渡辺電機(株)

マンガ家・渡辺電機(株)さんの公式ブログです

あんちゃん、死んでも辞めんじゃねえぞ

「もう一度お笑いの世界で花火を打ち上げたい」鶴太郎からそう持ちかけられ、浅草今半の個室にいることも忘れて「おまえバカか?」と大声を出してしまったが、彼は本気だった。「このままじゃ、終われねえんだ」俳優として認められ、絵画の世界でも成功を収め、ボクシングの世界でも顔が利く今の生活に、何の不満があるのかと半信半疑だったおれだが、彼の話にいつしか引き込まれた。もうお笑いは卒業した、そう思っていた。だが、卒業したんじゃない、負けるのが怖くなって逃げたんだ。ずっと胸の打ちに抱えていたモヤモヤは年々大きさを増し、ふと訪れた吉原のソープで、無銭で遊んで逃げようと受付で店員相手に嘘八百の身の上話をまくし立てていたおれを見て、決断したのだという。「やっと、人生の相方を見つけたんだ」お笑いへの熱い思いで意気投合、明け方まで何杯も盃を重ね、明日からの猛稽古の日々を約して鶴太郎と別れたおれは、彼の言うままに何枚もの書類に印鑑を押し保険証を預けたことを、きれいさっぱり忘れていた。もちろん、二度と鶴太郎と連絡はつかなかった。